No.548:社員に主体性がない、育たない、そんな会社がまずやることは「週一の会議」

年商2億5千万、社員数20名のシステム開発、T社長は言いました。
「先生、どちらかの課長が辞めてしまいそうです。」
現場の要である課長二人の関係は限界まで来ていました。片方の課長には「精神的」な症状も出ています。そして、この二人の関係が社内全体を暗いものにしています。
本来、このような人間関係の悪化も「仕組み」の問題と捉えることができます。しかし、その整備にはやはり時間がかかります。この件には即時の対応が求められていました。
そこで私は、一つの提案をしました。
「まず、週例ミーティングを始めてはいかがでしょうか。」
「話すこと」が人の力を引き出す
人間は、話すことで進化してきた生き物です。言葉によって思考を整理し、他者と共感し、集団で協力する力を高めてきました。「話すこと」こそが、人間の発展の原点なのです。
そして、話すという行為には、次のような多くの効用があります。
思考の整理:話すことで、自分の考えが明確になる
感情の浄化:感情を言葉にすることで、心が落ち着く
共感と信頼の形成:他者との会話を通じて、関係性が築かれる
学習・定着:言葉にすることで、理解と記憶が深まる
行動の動機づけ:自ら言葉にすることで、やる気が湧いてくる
創造・アイディアの誘発:対話の中で新しい発想が生まれる
「話すこと」が人の力を引き出すのです。人間は正に「話すこと」で発展してきたのです。個人としても、集団としても、言葉を交わすことによって知恵を深め、関係を築き、課題を乗り越えてきたのです。
社員に話させない会社で起きる問題
逆を言えば、「社員に話させない会社」では、これらすべてを欠いた状態になります。その結果、社内では次のような問題が起きるのです。
・課題が共有されず、解決策も出てこない
・社員のモチベーションは低く、社内の雰囲気は重い
・お互いの不満や誤解が蓄積し、人間関係が悪化する
・上司や先輩による関わりが薄く、人がなかなか育たない
・結果として、離職率が高くなる
これらは、起きて当然のことと言えます。人間の発展の原点である、「話す」「話し合う」ことを放棄しているのです。
会議が全くない会社、社長だけが話す会議
私はT社長に問いかけました。
「社内に定例の会議はありますか?」
社長は少し考えてから答えました。
「いえ、特に決まった形ではやっていません。」
これは年商数億円規模の会社では、決して珍しい話ではありません。
そもそも会議自体が存在しない。あるいは、存在していても実態は「社長だけが話す場」になっている――そんな会社が非常に多いのです。
そして、その結果が、「社員が育たない」「自発的でない」という状態なのです。
私はこれまで、「社員に話をさせない会社」で、闊達な社風が生まれていたり、人がしっかり育っていたりする姿を、見たことがありません。
逆に言えば――「社員に話させていない会社」で、「暗い社風」や「人が育たない」というのは、必然なのです。
会議とは進捗を確認する場
私は、T社長に一つの提言をしました。
「まず、週に一度の会議を始めましょう。」
会議も仕組みの一部です。そして、組織をつくっていく上では、必ず必要になります。その一部である「週例」を先に導入することを提言したのです。
T社長は、頷くも尋ねました。
「分かりました、でも、その週例では、何をすればいいのでしょうか?」
基本、会議とは「進捗を管理する場」となります。他の目的には「情報共有」や「課題解決」もありますが、会社での会議の多くは「進捗管理」になります。
「どこまでいったのか」、「次はどうするのか」を確認するのです。そして、それを確認する中で、課題が見つかり、そして、アイディアが出るものです。人が集まって、同じテーマで話し合えば、必ずそうなっていくのです。
T社長はその説明を聴いて答えました。
「先週の実績と今週の予定、週例でやってみます。」
会議で成果を得られていない会社の特徴
一方で、会議があるにもかかわらず、成果が出ていない会社があります。
「月に一度の定例で会議をやっている」、「管理職だけの幹部会を開催している」、「社員を育成するためのプロジェクトを立ち上げた」
これらの会議でも、「目標(そのチームが達成すること)」と「計画(誰がいつまでに何をするのか)」が無いと、つまらないものになります。そこでは「進捗の管理」ができないのです。そのため、初期は意見が出たものの、徐々に減退することになります。そして、自然消滅することになります。
「週1回の話す機会」が会社を変える
T社はその後、毎週決まった時間に進捗会議を始めました。
これが、会社に大きな変化を起こしました。
関係が悪かった二人の課長は、徐々に会話するようになりました。一方の精神的に不安定だった課長も、落ち着きを取り戻しました。その週例で業務フローの課題の発見と改善も話し合われました。週例が建設的な話し合いの場になったのです。その効果は波及し、各部署でも話し合いやミーティングの姿をみるようになりました。社内は明らかに雰囲気が良くなったのです。
これが、わずか2ヶ月での変化です。
彼らに必要だったのは、コミュニケーションのスキルでもそのための制度でもありません。ましてや、お互いの「思いやり」や「歩み寄り」でもありません。
『話す機会』が必要だったのです。人間らしい『話し合い』が必要だったのです。
提言:話させるから主体性が生まれ、人が育つ
社員に主体性がない、育たない――その原因を「人」に求めてはいけません。それは、やはり仕組みの不備なのです。
話し合う場が無い、まともな会議になっていない、その結果なのです。
仕組みすべてを作るには、やはり時間がかかります。そこはじっくり取り組んでいきましょう。
まずは、週例という「話す機会」から始めてみてください。
それが、社員の心と力を解放させ、会社を変える第一歩となります。
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矢田 祐二

理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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