No.260:やる気のある若手社員の抜擢人事を成功させるための条件とは!?

№260:やる気のある若手社員の抜擢人事を成功させるための条件とは!?

「矢田先生、今期の着地予想がでました。お陰様で、過去最高の売上げで過去最高の利益です。」
部品製造会社H社長が、言われます。横に座る専務から、年計グラフを渡されます。
 
拝見すると、2年前から業績の回復が始まっているのが解ります。
 
私が顔を上げるのを待って、社長は言われます。
「あの大鉈を振った時に、改革が始まったのです。」
 
2年前に、H社では、思い切った若手の抜擢を行いました。
それから、すべてのスピードが上がったのです。


会社内のすべてには、『基準』があります。
「何日以内に見積書を出すのか」、「在庫はどれぐらい持って良いのか」。
 
これらの基準があるおかげで、業務は「安定」を得ることが可能になります。
見積書も期日内に出されます。また、在庫も過剰発注や品切れを抑えることができます。その結果、安定した品質で、サービスを顧客に提供できるようになります。
 
もし、この基準が無ければ、業務は安定しません。その人の能力やその時の業務量の影響をすぐに受け、バラツキは大きく成ります。その結果、顧客へのサービスの品質は乱れることになります。
 
この『基準』こそが、その事業の定義であると言えます。また、その会社のノウハウとなります。この基準を継続的に作り変えることこそが、組織の機能であり、その会社の本当の強さなのです。
 
 
基準があることで、スタッフは、安定して業務をこなすことができます。判断のガイドラインを得ることができます。また、不具合に気づくことができます。
業務に基準があることで、「人事」を行うことができます。
・採用:基準と照らし合わせ自社で戦略化できると判断された人を採用します。
・訓練:基準を教え、その通りにやってもらいます。
・評価:1か月、3か月、半年という区切りで、その基準と照らし合わせることで、その社員の能力を測ることができます。
・面談:それをフィードバックします。また、追加の訓練を提供することで、補強することができます。
・処遇:給与体系の各等級の要件と照らし合わせ、昇給額が決められます。
・昇格:いまの働きを観て、管理者(課長、主任など)の要件を満たすか、または、満たすことが期待できるかどうかを判断します。
 
人事というものも、「基準」があることで、初めて成り立ちます。採用も、評価も、昇格も、基準があるからできるのです。
そして、その基準が会社としてあるからこそ、複数の人で意見交換ができます。社長と専務と管理者で基準を軸に議論することができます。ひとつの意思決定とその後の成果を検証することで、その教訓を「基準」に加えていきます。
 
「基準」を持たない会社では、「人事」を行うことはできません。
採用も、評価も、昇格も、すべてに目安となるものがありません。そのため、その時々の事件や人的資源の需給状況により、大きな影響を受けることになります。好き・嫌いという感情での要素も強くなります。
また、複数人での意見交換が成立しません。人事部がその役割を担うことができません。絶えず「社長」の一言で決まることになります。
そして、その人事の成果を検証することもできないために、会社としての教訓もノウハウも積み上がらないのです。


当時H社は、年商30億円で若干の黒字という状況でした。社員とスタッフ合わせ約120名という規模です。
 
仕組化が整備されるにつれ、H社でも「管理者の問題」が表出することになります。
「いまの管理者は、名ばかりの部長や課長ばかりである。自部門の目標達成のために邁進することも、考えて自ら仕組みを改善することも行っていない。」
このような管理者の問題は、仕組化を進める会社で例外なく起きることです。
 
いままでは、管理者の役目を担っていなくても、それで許されてきました。管理者というものに基準がないために、その実施状況も貢献度も見えなかったのです。
その結果、次のような人が管理者になっていました。
「声が大きい人」、「真面目に現場をこなす人」、「力ずくでも現場作業を納める人」。
 
仕組化が進むことで、多くの会社が次のような反省をすることになります。
そもそも管理者としての働きをしていない。管理者としての素養が無い人を、管理者に上げていました。
 
実際に、その管理者らの部門では、一つひとつの進みが遅くなっています。依頼したことが一行に進まないのです。
社長が「あれどうなった?」と訊くまで報告はありません。現場業務の忙しさを理由にします。「こうしたらどうか」と言えば、出来ない理由が返ってきます。マニュアル作成を依頼すれば、箇条書きと数行の稚拙なものがあがってきます。
 
私は、H社長にお聞きしました。「社内に、管理者の素養をもつ人材はいますか?」
H社長も、いまなら管理者の素養がはっきりと解っています。即座に数人の名前があがります。
 
30代、40代に人材がいることが解りました。具体的な候補者の名前もでます。
私は、「若手社員の抜擢」を提言したのです。
 
それを聞いてH社長も専務も、苦い顔をしています。
「過去に2度、若手の抜擢を行ったことがあります。しかし、その2度とも失敗に終わりました。その二人は失意のもとに、会社を去ることになりました。」
 
私は、『抜擢』を行うためには、基盤が必要であることを説明しました。
1.各業務の基準が明確になっていること。基準があるからこそ、管理ができる。
2.管理者は何を期待されているのか。その基準が明確であること。
3.会社としてPDCAを回す仕組みがあること。この根本的なサイクルが会社にあるから、各部門でも回せる。
 
この基盤ができているからこそ、抜擢人事が可能になるのです。H社では、業務の多くが仕組みで回り、各部門でPDCAにより改善が進んでいました。いまのH社であれば、『抜擢』という手が使えるはずです。
そして、その抜擢された人材をその基盤で支えることで、成果を出させることもできるはずです。
 
過去のH社には、この基盤は、ありませんでした。
各業務の基準は明文化されていないために、一つの業務をこなすためには、多くの経験が必要でした。そのため、昔からの職人の発言力が強くなっていました。また、管理者の役目の基準がありません。現場を見れば、全員が作業をしており、誰が管理者か解りません。そして、会社にはPDCAのサイクルがありません。
 
その状況に、抜擢された社員が放り込まれるのです。この状況を変えるためには、ものすごい力が必要になります。現場の職人を黙らせるだけの経験も、周囲を巻き込んで推し進める人間力も必要になります。
その結果、過去の二人の「やる気のある若い社員」は潰れていきました。そして、元の「管理者」がその席に戻ることになっていました。
 
管理者を変えるタイミングが来ています。
この時のH社には、若くて優秀な社員がいました。それ以上に、その社員を支える基盤があります。
 
社長が口を開きます。
「彼に足りないのは、経験だけです。地頭は良く、重い責任を進んで背負う気概もあります。彼なら、できます。私も、いまならもっと上手に彼をサポートできるはずです。」
 
彼を抜擢することで、その部門が崩壊するのではという危惧した状況は全く起きませんでした。
その人材は、それまでに周囲からの十分な信頼を積み上げていたのです。その部門のスタッフや他部門の管理者からの協力体制を、すぐにつくることができました。
そして、会社に対する信頼を回復することになりました。古くからの「管理者」をそのまま留まらせていることが、不信感になっていたのです。
 
会社の一体感は増し、すべてのスピードが上がったのです。社長が決めたことが、一つひとつ着実に確実になっていきます。あの決断から2年が経過しました。売上げは34億円の過去最高です。営業利益も3億円と過去最高です。
 
 
採用、配属、昇格、、、という人事を行うためには、基準が必要になります。基準と照らし合わせることで、その社員を評価することができます。そして、根拠のある判断をすることができます。人事の基準をつくることです。
 
そして、その人事の基準をつくるためには、業務の基準が必要になります。
一つひとつの業務に基準があるからこそ、人を訓練することも、改善に参加させることもできます。業務の基準とPDCAサイクルという基盤が必要になります。
 
その状態ができて初めて、社長は『人事』に手を付けることができます。
業務に基準のない状態で、人事に関する制度を導入しても、それはすぐに形骸化することになります。人事に基準がない状態で、人事に関する決定をすれば、それは、「社長の思い付き」や「独断」となります。
 
基盤があって初めて、「社長の決断」が「会社の変革」に繋がるのです。

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