No.332:給与制度の設計は、どうあるべきか。どのタイミングで見直すべきか。

№332:給与制度の設計は、どうあるべきか。どのタイミングで見直すべきか。

エンジニア系業務の代行業M社のコンサルティングも中盤に差しかかりました。事業モデルは見つかり、順調に新規顧客が取れています。
 
席に着いたM社長は、口を開きました。
「先生、昨日、社員3名が揃って辞めたいと言ってきました。」
 
私は、お聞きしました。「彼らはなんと言っていますか?」
M社長が答えます。
「給与が安いと。本当は別の理由があると思います、自分達で会社を起こすのかもしれません。」
 
私は、一通り聞き取りをし、言いました。
「給与が安いという理由は、彼らの本心かもしれません。」


我々は、「いつも同じ結果」を求め、仕組化をしています。
それも、自動的に、です。
その仕組みの対象となるものは、主に『人の心』となります。
 
・ユニフォームは、いつもお客様に狙い通りのイメージを沸かせます。「可愛らしい」、「明るい」、「威厳がある」そして、働く者の心に緊張感を与えます。
 
・現場調査シートは、チェックすべきことを思い出させてくれます。「交通量はどうか」、「架線はないか」、そして、それを繰り返すことで、その技術者が育っていきます。
 
提案書も、経営計画書も、事務所の壁紙も、社内にあるものすべてが、仕組みなのです。そこには、必ず社長としての意図、すなわち、望む結果があります。
 
もし、望むものと異なる結果が出れば、仕組みを直します。また、環境(条件)が変わった時にも、仕組みをいじります。それによって、『人の心をコントロールする再現性』を得ることができます。
 
これこそが、その企業のノウハウだと言えます。
「特定の誰かがいないとその効果を顧客に提供できない」や「新人が習得するまでに時間がかかり過ぎる状態」ではダメなのです。また、「誰かが辞めたらノウハウやデータが失われる」など以ての外なのです。これらは、いままでもこのコラムでお伝えしてきた通りです。
 
社長は、人の心が解らないといけません。人の心をコントロールする術を持つ必要があります。


給与制度もその仕組みの一環となります。給与の払い方によって、働く人の心をある方向に動かします。そして、組織の動きを導きます。
 
給与制度の発揮する効果の大きさからすると、仕組みの中でも、特に重要なものとなります。
 
給与とは、『人』にとって、いくつもの意味を持ちます。
一つは、『糧』です。社員とその家族にとっては、生活の基盤であり、子供の教育の資金にもなります。豊かさを決定づけると言っても過言ではありません。
 
組織の中での、『存在意義』とも言えます。人は、「集団で協力することで生き延びてきた生き物」です。そのため、その組織内での存在意義や貢献度を表す給与は、その人のモチベーションに大きな影響を与えることになります。
 
給与の与え方やその金額は、働く人の心に大きく作用します。
そのため、社長は、「どのように社員を働かせたいのか」、「当社をどのような組織にしたいのか」という明確な意図を持つ必要があるのです。その意図があることで、給与制度という仕組みをつくることができます。


そんな給与制度という仕組みを、上手く使えていない会社は多くあります。それどころか、弊害が出ているケースも少なくありません。
下記に、代表的な2つを挙げます。
 
ケース1.給与水準が低すぎる
目指すべき給与水準は、同業同規模の会社の少し上(1割、2割多い)です。それによって、優秀な社員を集めることができます。そして、そう簡単には転職できなくなります。
 
この逆をすれば、当然、逆の結果を得ることになります。
他社を辞めた人が、格下の会社を求めて我社にやってきます。少し条件が良い会社を見つけると、転職する「動機」になります。
 
低い給与水準という仕組みは、「ダメな社員を集め、定着しない。」という結果をいつももたらしてくれます。そう出来ているのです。そう出来ているから、仕方がないのです。それなのに、いざ社員が辞表を持ってくるとショックを受ける社長がいます。
 
社長自身が、実は、「うちの会社の給与水準は低いな」と思っていることも多くあります。それを気づかないふりをしています。または、「やりがい」や「顧客への貢献」を謳い、安い給与を正当化しようとします。そのためのツールとして、経営理念や教育が使われます。
 
または、修業期間を給与が安い理由にしている業種もあります。
「一人前になるまで給与は安い」ということは、「一人前になったら、独立せよ」というメッセージを送り続けることを意味します。そして、育ったころに辞めていくことになります。これが狙い通りであれば、何も問題ありません。
 
 
ケース2.成果給の割合が高い
成果給の割合を高くすると以下のメッセージを社員に発信することになります。
・貴方には、短期的な成果を求めます。
・ある程度、やり方も時間も、自分の自由にやってよい。
・会社の取組み(行事、部下の指導、仕組みの改善など)には、関わらなくてよい。
すべてが、「自分の成果を出すことに、全力をかけてくれ」となるのです。
 
成果給の割合が高くなればなるほど、このメッセージは強くなります。本人には、『外注』という意識が強くなり、会社に対する帰属意識は薄れていきます。成果に対しハングリーさが求められる営業部隊(代表的なものが保険営業)やクリエイターに用いられます。
 
これを意図して行っていれば問題はありません。そうでなくやっている会社も少なくないのです。
 
冒頭のM社も、その1社でした。
私は、M社長から状況をお聴きし、愕然としました。その給与制度は、この時のM社長の目指すべき方向とは、全くそぐわないものだったからです。私も、早く確認するべきでした。
 
この時のM社の事業モデルは、「ある専門分野のエンジニア業務を代行する」というものに変貌を遂げていました。その業界では、エンジニアの確保育成は、大きな課題になっています。そのため、M社のサービスが受けたのです。
 
M社の方針は明確です。「エンジニアを沢山確保し、育て、優秀な方には長く勤めてもらう」というものです。
 
なのに、給与制度は「成果報酬の割合が高い状態」にあったのです。そのため、エンジニアである社員の心理は、社長の意図する方向とは異なるものになっていたのです。この給与体系は、創業当時からのものでした。創業当時で事業モデルも見えず、規模も小さい、その当時には勝手の良い制度だったのです。
 
事業モデルを見つけた今のM社の社員へのメッセージは、下記になるはずです。
・会社として高い技術力を所持したいので、長く勤めてください。
・当社のサービス基準を満たすために、当社のやり方を遵守してください。
・会社の取組み(行事、部下の指導、仕組みの改善など)に、貢献してください。
 
全く逆の効果を発揮し続けていたのです。
その制度の甲斐もあり、3名は「辞めたい」と言ってきたのです。これは、当然の結果なのです。
 
それも勤続年数も長く、技術もある3名です。そして、あろうことか新入社員のトレーナーやチームのまとめ役もやってもらっていました。
管理者的な業務をやらせていたのです。本来なら、成果報酬の部分を大幅に下げる必要があったのです。それをしていませんでした。
そのため、彼らからすると、これらの業務は唯の「時間の浪費」であり、「自分のライバルを育てること」になっていたのです。
 
M社長は、翌日に彼らと話をしました。素直に自分の非を認め、そして、早急の給与体制の見直しを約束しました。そして、「もしよければ、残ってほしい」と頭を下げたのです。その3名は、その申し出を快諾してくれました。
 
M社長は、後日の私との面談で言われました。
「彼らには、申し訳ないことをした。私は、経営者として、あまりにも給与について無頓着でした。彼らのお陰で気づくことができました。」
 
私は、言わせていただきました。
「普通は、ストレートに給与が安いとは、言ってくれないものです。いままでのM社長への信頼があったからこそです。」
 
 
通常、社員が辞める理由を、「別にやりたいことが見つかった」と言います。実は、「給与が安い」と思っていても素直には言いません。金を理由にするということに、疚しさを感じているのかもしれません。
 
事業モデルが見つかり、組織が出来始めるタイミングで、給与制度の整備の必要性が高まります。必ず、このタイミングです。(事業モデル、組織が出来ていないうちは手を付けないこと)
 
社長は、人を使うプロフェッショナルにならなければなりません。
そのための仕組みを駆使します。とりわけ、心理学者であり、メンタリストなのです。給与制度も、仕組みの一部として、取得してください。

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