No.197:会社が大きくなる過程で、高コスト体質になり、利益が出難くなることがあります。そんな会社は、例外なく〇〇がすごく苦手です。

コラム№197

「矢田先生、今期は利益が出せませんでした。」
コンサルティングを終え、3年ぶりの正式なご相談です。
機器メーカーM社は、ここ数年、毎期20%の伸びで推移しています。
 
M社長、煙の出ないタバコの端を、額にグリグリ当てつけています。
「売上げが増える以上に、経費が増えています。どうしてこんなことになったのでしょうか。」
 
私は、常套のお願いをさせていただきました。
「経営計画書を見せていただいていいですか。」


経営計画書には、良い経営計画書と悪い経営計画書があります。
経営計画書の良い悪いを分ける基準は、「イメージが持てるかどうか」です。
社長は、イメージによって、組織を導くことができます。
 
それと同様に、理念についても、良い理念と悪い理念があります。理念も同様に、「イメージが持てる」ことが重要になります。
自分たちが何者であるのか、自分たちは何を大切にするのか、理念はそれを自分たちに明確にイメージさせます。
それは、経営理念、事業理念、どちらにも当てはまります。
 
『自分たちが何をするべきか』、そのイメージを持つことができます。
それを、次のように表現することもできます。
 
『自分たちは、何をしてはいけないか』
良い理念は、自分たちが「何に手を出してはいけないか」を明確に知らしめてくれます。
理念とは、「やること」以上に、「やってはいけないこと」を強くその組織の構成員に命じることになります。
 
(理念の例)
・世界中のすべてのアスリートにイノベーションとインスピレーションを
・服を変え、常識を変え、世界を変えていく
・うまいすしを腹一杯。うまいすしで心も一杯。
 
理念は、自分たちが「やること」と同時に、「やってはいけないこと」を浮き彫りにします。
 
これが浮き彫りにならないのが、悪い理念となります。
この「悪い」という言葉は、「効果がない」ことを意味します。
「本来、組織に効用をもたらす理念」が、かえって「組織を惑わせ、弱めること」になります。その理念の代表格が、「社会への貢献」です。他には、「顧客に貢献する」というものです。
 
どんな組織も、何かに貢献するために生み出されます。
貢献するもの、奉仕するものがあるから、「組織」が生み出されます。そして、その役目を果たすからこそ、「組織」として存在し得ます。
貢献のお礼が売上げです。そして、その中から、その貢献のために使った経費を引いた残りが「利益」です。その「利益」の中から、もっと多くの人に貢献するために、宣伝広告を行います。また、時代に先回りするために、研究開発をします。
 
貢献した実証が売上げであり、効率の良さが利益なのです。
貢献した会社が栄えます。そこから投資した会社はさらに発展します。逆に、貢献できない会社は、その役目を終えることになります。
 
「組織」イコール「社会への何かしらの貢献体」なのです。
これは企業だけではなく、役所や財団にも言えることです。
この組織の『根本』であり、組織共通の存在意義を、そのままある一つの企業の『理念』に据えることはできないのです。
「理念」は、必ず『外』、すなわち、奉仕する対象に向かいます。それは、ある特定された対象になります。「理念」には、その組織独自の「社会の中での役割」が込められる必要があります。
 
 
「何を捨てるか」、それを明確にしたものが理念とも言えます。
社長が生み出した会社、社長の人生をかけて成し遂げるものを定義したものが経営理念です。自分の人生で、すべてを得ることはできません。やりたいことはいくらでもあります。
しかし、何かを捨てなければいけません。何かを捨てることで、その選んだ唯一のものをもっと深く、スピードを持って探求、実現することができる可能性を得ることができます。
 
そして、その経営理念から、選んだのが今の事業です。その理念を実現するための手段が、今の事業なのです。
経営理念は、社長をはじめ経営陣に、会社は何をするべきか、会社は何をしてはいけないかを命じます。
事業理念は、その構成員に、この事業は何をするべきか、この事業は何をしてはいけないかを命じます。事業理念は、その奉仕する対象が替われば、その数だけ必要になります。
 
捨てるものが明確であるほど、その人の人生は研ぎ澄まされることになります。
そこに迷いはありません。
捨てるものが多いほど、その人は、その分野で大きな成果を得ることができます。
そこにこそ、偉大さが生まれます。
 
捨てるものが不明瞭であるほど、その人の人生はどっちつかずになります。
捨てるものが少ないほど、偉大さとは遠く離れたものになります。
捨てないとは、イコール凡庸さを選ぶことを意味します。
 
これは、組織でも同じです。
捨てるものが明確で、捨てるものが多い組織ほど、専門性は高く、スピードを持ちます。経営者、そこで働く社員にも迷いはありません。
社内の仕組みもマニュアルも、必要最低限のものに絞れてきます。
 
それに対し、捨てるものが曖昧、捨てるものが少ない組織ほど、専門性は中途半端で、スピードを持てません。社内の仕組みもマニュアルも、多くなります。そして、改良も遅くなります。偉大と呼べるレベルにないために、社員もプライドが持てずにいます。


経営計画書を作成する過程でもっとも重要なことは、「捨てる」を決めることです。「捨てることを決めるために、経営計画を立てる」と言っても過言ではありません。
 
やったほうが良いことはいくらでもあります。
「お客様に、定期的に情報を届けよう」、「〇〇のデータを取るようにしよう」、「営業担当からこういう書類を提出させよう」、「どんなお客様もかわらず大切」
広く応えよう、多くをやろうとするほど、社内コストは大きくなります。
 
「捨てることを決める」ことが必要です。
・最低ロットを大きくする。それにより、お客様の選別をする。
・強い競合の居るエリアは、思い切って捨てる。別のエリアに活動を集中させる。
・このアイテムは、赤字ではないが、大きくはならないので、廃止しよう。
・〇〇のデータの集計は、止めよう。改善しても、大きな金額にはならない。
 
「何かを捨てる」、それは、社員では判断できないことです。
いま続けていることを、各部門で「捨てる」とは決められないものなのです。
そのため、社内では、「やったほうが良いこと」で溢れることになります。
小さい取引先、手間のかかる案件、会議のためだけの資料、、、その目的は忘れ去られ、その手段だけが残っています。
 
社長は、「捨てる」ということを決めることが必要になります。
「捨てることを決めない」と、内部は雑多な業務で溢れかえることになります。そして、会議も多い傾向にあります。そして、残業も多いのです。
 
冒頭のM社では、組織の拡大とともに、社内の業務が雑多になっていました。
成長する過程で、何かを取り入れる一方で、捨てることをしてこなかったのです。
そんなM社の経営計画書は、やはり「雑多」になっていました。
M社長は言われます。「各部からの上がってきた目標や、やりたいことをすべて取り入れました」と。
 
やったほうが良いことを簡単に取り入れ、捨てることをしない。その繰り返しが、高コスト体質の一番の原因です。


そのような会社の経営計画書を見ると、やはり「雑多」なのです。
格好良いスローガン、沢山の目標、複雑な数字が並びます。
そのため、何が本当に重要なのかが解りにくくなります。そのため、各管理者や社員に、正しくメッセージが伝わりません。
 
私たちは、正しく、彼らにメッセージを伝える必要があります。
「この〇〇を、何としても達成してくれ。」
メッセージを正しく伝えることで、彼らを追い込むことが必要です。
 
『追い込むこと』、この重要性を正しく理解し、正しく行使する必要があります。
 
各部に与える目標とは、「今期は、この目標を達成してくれ」、「この仕組みを改善してくれ」という追い込みになります。それは、「今期これを達成しなければ、部として存在意義はない」というほどのものです。
 
役職も追い込みです。「作業はするな。管理し、しっかり業務完遂のために役目を果たせ」というものになります。「そのための君である」。
 
教育でさえも追い込みです。「A君は、このソフトが使えるようになってくれ」、「B君は、アポイントの獲得率を上げてくれ」という追い込みなのです。
 
『追い込み』とは、『限定』なのです。限定こそが力です。
 
経営計画書では、「何をするべきか」が明確に書かれています。それは、同時に「何をしないか」も明確にします。
良い経営計画書は、自分たちの行動がイメージできます。そして、追い込まれます。その結果、期中の動きは、シンプルになります。
各部や各担当は、限定された目標や業務に勤しんでいます。それを、やらなければ、どうなることやらと、追い込まれています。
 
経営計画書によって、追い込むのです。
社長は、経営計画書という道具をつかって、行動のイメージを沸かせ、追い込んで行動に向かわせるのです。
 
「イメージが持てない」、「追い込んでいない」では、経営計画書ではないのです。
沢山のことが書いてある割に、明日からの行動も解りません。各部や各担当は何を求められているのか解らないのです。
 
そんな経営計画書の元では、社内は忙しそうに見えても、何も進みません。
管理者は、簡単にできそうな目標や緊急性のある業務に流れていきます。社員は膨大な書類作成で、残業が多くなっています。新しく仕事を振られるのが嫌なので、忙しい振りをします。
部下の育ちも遅いのです。具体的に何を直せばよいのか解っていないのです。
 
経営計画書とは、社長の頭の中です。
社長の頭の中が整理されていないと、経営計画書もごっちゃごっちゃになります。
それは、まだ、経営計画書に向かう時間が、絶対的に足りないことが原因です。
何回も、何十回も、経営計画の検討に取り組む。何度も書き直す。
その時、「何を捨てるか」を選ぶのです。
その繰り返しで、社長の頭の中は整理されてきます。
 
それと比例して、社内も整理がされてきます。
いらない仕組み、頑張らない分野、廃棄してよい書類の、淘汰が進みます。
組織も、社長の頭の投射なのです。
 
 
今、会社という組織を、何に追い込んでいますか。
追い込みが甘くないですか。
 
その原因は、「何に追い込むのか」の不明瞭さにあるのです。
「どう追い込むか」のやり方にあるのです。
それとも、社長自身が、「追い込まれていないのか」、どれかです。
 
社員は、管理者により追い込んでもらえます。
管理者は、社長により追い込んでもらえます。
社長は、自分で追い込むことになります。
 
自分を追い込める人こそが、プロなのです。
多くを捨てた人こそが、偉大になれるのです。
 
何に自分を追い込むのか。自分の人生で何を捨てるのか。
それを決めないと、次に進めない時期にきています。

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