No.276:事例:大手企業の事業所閉鎖に伴い売上激減のF社。事業で絶対に敵にしてはいけない相手とは?

№276:事例:大手企業の事業所閉鎖に伴い売上激減のF社。事業で絶対に敵にしてはいけない相手とは?

システム会社F社は、大手A社の生産拠点となる地方都市にあります。売上げのうち7割が、A社関連です。
 
大手A社も、グローバル化の波に翻弄されており、世界市場でのシェアを落とす傾向にあります。
 
F社の売上げの推移を拝見すると、ここ3年は3億円を維持しています。利益額は年々小さくなっており、前期は営業ベースでマイナスです。
 
私が顔を上げるのを待ち、F社長は言われました。
「このままではまずいとは思っていました。しかし、何も事業のアイディアが出てこないのです。」


事業に特色があること。そして、お客様に圧倒的に支持されること。これが高業績を得るための絶対条件になります。
 
そのためには、次の4つをクリアしておく必要があります。
 
1.今の顧客を満足させること
社長が設計したサービスを、狙った通りに売り、狙った通りに顧客を満足させます。仕組みによる、安定したサービスの提供が必要になります。
 
2.競合と比べられて勝つこと
集客の段階で勝ち、営業の段階で勝ち、そして、サービスを利用した後も勝つ、その結果として選ばれる1社になる必要があります。
 
その上で、そのサービスが『時代の流れに合っていること』です。言い換えれば、『価値観の変化に合っていること』となります。価値観の変化は、次の二つの動向によって大きな影響を受けます。
 
3.技術の進歩
スマートフォンが出て、携帯電話は無くなりました。どの家庭も風呂を持てるようになり、多くの銭湯が廃業をしました。一つの技術の誕生が、何かしらの技術を駆逐していきます。
 
4.人口構成の変化
日本は、高齢化社会にあります。その度合いは、地域によって異なります。
高齢者率30%の政令指定都市があります。一方で、大型マンション建設に伴い小学校が新設されるところもあります。その地域の人口構成が、その地域で消費されるサービスを決定付けます。
 
この3、4の結果、価値観が変わります。
多くの書店は、ネットという「技術」により淘汰されていきました。私たちの中には、買い物はネットでするという価値観が形成されています。過疎地域や共働き家庭が増えるということも、「ネットでの買い物」を更に加速させました。
 
昔ながらの銭湯や書店というものを残そうというのは、文化人の役目です。我々事業家は、その『入れ替わり』を担うものです。新しい価値を創る、それにより社会を支える。そして、社会を変える。それをいち早く行った人が大きく儲けることができます。
 
誰かが淘汰する側に回ります。その一方で、誰かが淘汰される側に回ります。自社が淘汰される側に回ってはいけません。
 
そのためには、時代より先を行かなければなりません。変化を予測し、サービスを作り変えるのです。我々は、時代の変化を「加速」させます。
地域や業界の変化を、大きく加速させたものが、繁栄するのです。


この意思決定をすることこそが、社長の役目となります。
技術や人口構成の未来を読みます。そして、そこで「ウケる」ビジネスに作り変えていきます。場合によっては、新しいビジネスを立ち上げます。
 
そのために、社長は『外』にでることになります。展示会やセミナーに参加します。地方を実際に見に行きます。お客様を回ります。社長は、全身全霊を持ってその変化を読むのです。
 
そして、考えます。考え続けます。他社のビジネスモデルも研究します。異国の企業も観察します。その結果、大きな決断をすることになります。
 
市場の変化を読まなければ、社長の役目を果たしていないことになります。儲けるための事業モデルに関する意思決定ができなければ、社長ではないのです。
 
冒頭のF社長にも、それは十分に解っていました。取引先である大手A社の日本での業績が、良くないことは知っていました。F社長も、この先、この地域は悪くなっていく一方であると思っていました。
 
しかし、忙しい毎日です。F社の事業は、「クリエイティヴを売る」、「相手の要望に合わせる」という、年商数億企業の特徴そのものでした。
そのため、社長自ら多くの案件をこなす必要があります。お客様から課題を引き出し、その場で企画をまとめる、そして、全体構想をする。これを社員の中でできる者はいません。
 
そして、徐々に儲からなくなってきました。A社自体が厳しいということもあり、単価を下げられていったのです。その結果、忙しいのに儲かっていないという状態になっていきました。
 
規模(売上げ、社員)を維持するために、F社長は頑張りました。補修パーツの取り扱いやメンテナンスの提供もするようにしました。一部の書類の作成も申し出ました。
 
その結果、F社長は更に忙しくなっていきます。また、社員も疲弊しきっています。何人かが体調を崩し去っていきました。その結果が、営業ベースでのマイナスです。これには、F社長も心が折れそうになりました。
 
そのタイミングで、当社に相談会を申し込みました。それが冒頭です。
「まずいとは解っていたのです。何か新しい事業をと考えてはいるのですが、アイディアが全くでません。」
 
F社は、完全なる複雑化を起こしていました。そして、内部の仕組化は全くされていません。仕組化がされていないため、管理者が機能しません。そこに業績の悪化です。いよいよ何も手を打てなくなりました。益々、事業アイディアを考える時間もなくなっていったのです。
 
 
コンサルティングを始めて半年が経つ頃、F社長はある情報を入手しました。「矢田先生、A社がこの地域の事業所を閉鎖することを検討しているそうです。」
 
私は、その時期をお尋ねしました。
F社長、「2年後とのことです。少し急がねばなりません。」。
 
私は、閉鎖が正式に決まれば、新たな投資は完全にストップすること。そうすれば、F社へのシステム関連の発注はたちまち無くなるだろうとお伝えしました。
 
それから、2か月後に正式な発表があります。その地方新聞の一面を飾るニュースになりました。
 
この時には、F社長は、A社以外の案件を取りに行っていました。また、A社の閉鎖まで残りそうな業務を優先的に取るようにしました。借入も起こしました。(A社のニュースが知れた後では、借入は出来ません。)
 
これらは、新しい事業を構築するまでの繋ぎとなっています。今もF社長は、新しい事業を立ち上げるために頑張っています。
 
 
技術、人口構成などに合わせ「時代」は変化をしていきます。それに合わせ、事業を変化させ続けなければなりません。残念なことに、この定め事に対しての認識が恐ろしく薄く、無頓着な経営者は少なくありません。
 
絶対に、時代に歯向かってはいけません。
御社は、時代を敵に回すような事業をやっていませんか?
 
時代の変化を読む。意思決定をする。
その結果、時代を味方にする。
それが経営者の役目です。

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