No.290:いまの工賃の積み上げでの価格設定や、小さい会社だからやっていける単価では、ダメなのです。

№290:いまの工賃の積み上げでの価格設定や、小さい会社だからやっていける単価では、ダメなのです。

システム会社S社長は頭を抱えています。
「先生、私には先方が何を考えているのかが全く解りません。」
 
S社は、システムのパッケージ化を進めていました。その商品に確かな手ごたえを感じています。
 
その動きの中で、大手企業へのプレゼンの機会を得ることができました。事前に聞いている要望であれば、間違いなく喜んでいただけるはずです。
 
やはり、提案すると先方の担当者は、大喜びをしてくれました。しかし、価格を提示したところ、一瞬で表情が厳しいものに変わったのです。
 
そして、言われました。「これでは、困ります。これでは、安すぎます。」


事業とは、『単価で稼ぐ』か、『数で稼ぐ』か、のどちらかになります。
 
単価で稼ぐためには、「マニア向け」のサービスとなります。自分の欲求を満たすためには、お金を惜しまないという人達です。そんな人達向けに、トコトン拘った商品をつくり、高値で売ります。ただし、対象者の数は多くはありません。
 
数で稼ぐためには、「マス向け」のサービスとなります。その分野においては、コダワリよりも、使いやすいや手ごろ感を重視する人達です。一件当たりの儲けは小さいのですが、対象となる顧客は多くいます。
 
マニアを狙い単価で稼ぐか、マスを狙い数で稼ぐか。
これこそが事業の設計と言えます。このバランスこそが、事業となります。
 
・腕時計
数十万円から数百万円の時計を買う層がいます。その時計は、「機械式」で、数年に一度メンテナンスが必要です。そのメンテナンスは、1回十万円はします。
それに対し、「時計は何でもよい」という人が沢山います。そんな人は、ブランドを気にしません。海外産の安いものでもOKです。携帯電話を持つことで、遂に腕時計を持たなくなりました。
そんな中にも、数万円もするマラソン用の腕時計を買うマニアがいます。
 
・スポーツジム
大きい建物に沢山の設備を持つ総合スポーツジムがあります。月の会費は、6千円から1万円です。若い人から高齢者まで色々な人がいます。
それに対し、マニア向けのジムがあります。筋肉系のジム、カーブス、24時間営業、3か月でやせる、パーソナルジム。
 
どれぐらいのマニアを狙うかで、市場規模が決まります。どれぐらいのマスを狙うかで、単価が決まります。
 
そして、その事業のエリアを決めます。「ネットで日本全国に売る」、「人口10万人都市に一店舗を出す。」、「日本国内の〇〇メーカーをターゲットとする」
そのエリアでどれぐらいのシェアを取るか、すなわち、どれぐらいの件数を顧客にするかによって、年商が予測できます。
 
この単価と数のバランスを設計します。そして、そのエリアに対し展開します。狙い通りにいけば、狙い通りの年商を得ることができます。
 
 
「中小企業はニッチを狙え」とは頻繁に聞く理論です。だからと言って、すべての会社が「マニア狙いの事業をやるべき」と、短絡的に考えてはいけません。それは間違いです。
 
上の大きなステージに進むためには、次のことも考えなければならないのです。
「金を払う人が少なからずいる」必要があります。
 
マニア過ぎて、その対象となる人が少なすぎてもダメです。そこそこの人数が必要になります。逆に、マスを狙えば、大手とぶつかることになります。また、閉ざされた地方都市であれば、事情が違ってくるのです。
 
そして、そこに「この先も、自社の独自性を保てるか」と「競合の有無とその相手に対する勝算」も加えて考えることになります。
 
年商10億円に進むために、つくる事業は次の通りになります。
「自社の独自性が保てて、対象人数がそこそこ多いニッチな市場で、シェア1番を狙える」事業となります。
 
・〇〇専門の設備メーカー
・難関大学を目指す学生向けの学習塾
・過疎地域の住宅の総合工務店
 
そのうえで、いくつかの条件を満たすことが必要となります。
・手間と単価が見合っていること。
・そして、社員ができるように、クリエイティヴが抑えられていること。
 
これらが、年商数億円から年商10億円へ変革するときのポイントになります。これだけの条件を満たす必要があるのです。そして、これこそが、多くの企業が年商数億円の規模で停滞する理由です。非常に難しいのです。


冒頭のS社は、いままで受託型のシステム開発事業をやってきました。お客様の要望を聞き、それに対し、システムを企画し開発までします。
 
そのため、一部の優秀な社員に仕事が集中するという状況になっていました。そして、近年、1社の売上げの割合が全体の8割と高くなっていました。その結果、その1社からのお願いごと(無料で雑多な依頼)を断れなくなっていました。また、価格もほぼ相手の言い値となっていたのです。
 
その状態をもう6年も続けています。この6年間、社員一人当たりの稼ぎは落ち続けています。その一方で、忙しさは増しています。
 
 
S社長は、その状態を脱する決意をしました。そのために考えたのが、システムの『パッケージ化』です。過去に開発したシステムの中から、年商10億円ビジネスの条件に合わせ候補をだします。そして、改良を行います。
 
3か月後には、パッケージの基本仕様が出来上がりました。次は数社に実際に使ってもらい、最終的な仕上げをする段階です。
 
このタイミングで、大手企業の紹介を受けることをできました。その大手企業が抱える課題を聞けば、このシステムで解決できることが予測できます。S社長は、少し興奮していました。
 
実際に、大手企業の担当者も、S社のシステムの説明を受けると、喜びました。「これなら現場からの要望のすべてに応えられそうです。」年度末までの期限も近づいています。
 
その場で、価格の概算をお願いされました。S社長は、料金表を取り出し、先方に見せます。
 
先方の担当者は指でさし、訊きます。「これが価格ですか。」
S社長、自信を持って答えます。「はい。それが総額となります。」
 
それからです、先方の担当者の態度が変わったのは。一瞬で、いままでの前のめりの姿勢は無くなりました。腕組みが壁のようです。
 
 
S社長は、その数日後のコンサルティングで、矢田に聞きました。
「先生、何が起きているか解りません。先方の担当者からは、安すぎると怒られました。」
 
私は、状況を確認し、いくつかの推察を述べさせていただきました。
・大手企業にとって、その金額は安すぎるために、「安かろう悪かろう」という思いを抱かせてしまった。
・今まで使用してきたシステムの金額と、S社の提示した金額に、あまりにも大きな差があった。
・担当者として、その金額を上長に見せれば、「いままで何をしてきたのか」と怒られてしまうことになる。部門としても「自部門の大幅な予算削減」を意味する。
 
それを聞いて、S社長は「なるほど」と口に出します。しかし、本当には腹に落ちていない様子です。「しかし、先方の経営者としても、性能が良くなったうえで、これだけ経費を削減できれば嬉しいはずです。」
 
私は答えます。「そうですね。経営者なら、ですね。」
 
実際に、その大手企業の担当者にアドバイスをもらい、見積書を作成すると、導入が決まりました。セッティングや初期の立ち合いなどを加えるとその金額は、当初提示した4倍ほどになりました。
それでも、先方の担当者からは、「まだ安い」と言われます。(本当に良い方と出会えました。)
 
その価格が、その後の基準になりました。想定する見込客に持っていくと、どこにも納得していただける料金体系ができました。
 
S社長、いままでに染みついた値決めの癖を変えるのに、非常に苦労をしました。
「価値でなく、工賃の積み上げでの価格を設定してしまう。」
「自社が小さな会社だからやっていける料金体系になっている。」
「大手企業の担当者(サラリーマン)の思考パターンが解らない。」
「高額をもらうことに対し、何か引け目を感じてしまう。」
 
その当時、S社の年商は3億4千万円でした。翌期には4億円、翌々期には5億6千万円となりました。これだけの伸びが実現できるのも、「パックを売ることでの効率化」と「一件当たりの単価が大きい」からとなります。
社員の残業は激減しながらも、一人当たりの稼ぎは1600万円になっています。
 
S社長は言われました。
「値決めは、本当に難しいですね。しかし、自社で値段を決められることは、本当にうれしいことです。」
 
 
値決めは、経営という言葉があります。
値決めによって、その事業が定義づけられます。値決めによって、「お客様からの見え方」が決まります。一件当たりにかけられるコストも決まります。
結果、儲けの構造が決まるのです。
 
自社で値決めをする、ということこそが、本当の意味での年商10億円に向けた第一歩となります。
 
世の多くの年商数億円企業は、次の状態にあり、自社で値決めはできないのです。
・国や業界が決めた標準の価格に囚われている。
・下請け仕事ばかりで、指値で案件が降ってくる。
・エンジニア派遣と言いながら、実際は人工出しになっている。(日当+管理費)
・原価と工賃の積み上げでの価格設定になっている。
 
自社で値決めができるということは、自社のオリジナル商品があるということです。自社の独自のものです。それは、経営の独立を意味します。
 
それが、私たちの目指す世界です。
自社で商品をつくる。自社で値決めをする。そして、自社で売り歩く。
 
強い事業をやりましょう。社長も、社員もみんなハッピーになります。

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