No.291:会社が成長する過程で、社員の給与はどう変化するか。

№291:会社が成長する過程で、社員の給与はどう変化するか。

年末の寒い日に、N社長は、当社に相談に来られました。
コートを脱ぎ、席に着くとすぐにN社長は口を開きます。
 
「先生の本を読んで、毎年当社が厳しくなっていく理由がはっきり解りました。ありがとうございます。」
 
建設工事業N社の年商は2億8千万円です。パートを含め、総勢14名。
課題一覧表には、『生産性が700万円と低い』とあります。
 
「今月、給与の一番高い社員さんが、定年で退職をします。これで少し時間を稼げます。」


組織は四階層になります。
それは、ピラミッド構造となり、下から「作業層」、「判断層」、「管理者層」、「経営層」となります。
 
作業層:現場で業務をこなす層。決められたことをその通りに行えば、何かしらの生産物(サービス)が出来ます。
 
そのうえに、判断層がいます。
判断層:現場で起きるイレギュラーに対し、適切に判断し、指示を出します。一般的には、主任、班長という役職になります。
 
この二つの層が、実際に現場で動き、生産性を上げます。すなわち、稼ぎを上げる層となります。
 
管理者層:大きな役目は、自部署の「目標達成」と「仕組みの改善」です。そのためにチームの信頼関係を保ちます。この過程で部下を育成します。部長、課長という役職名になります。
 
そして、一番上には、経営層となります。
経営層:事業の戦略、各方針を決定します。長期的かつ全体的な視点で、PDCAを回します。
 
組織は、必ずこの四階層になります。組織の中での『縦の分業』です。
 
 
この組織の分業を強化するための施策として、『給与制度』があります。
この役割に応じて、報酬が決まります。それぞれの役割に応じ、給与の帯が決められることになります。
 
この組織の階層と帯の考えから、世の代表的な給与体系である『等級と号俸』が生まれたのです。
作業層をⅠ等級とⅡ等級、判断層をⅢ等級、管理者層をⅣ等級とⅤ等級、そして、経営層をⅥ等級。そして、各等級を20に分け号俸を設けます。そして、金額を設定します。
 
各階層の給与の下限と上限が、決まっています。
その帯の中で、貢献度が増すと、給与は増えていきます。しかし、どこかで止まることになります。役割は変わらないのです。
 
役割が上に変われば、上の帯に移ることができます。それにより、大きく給与は増えることになります。そこには、「重い責任を持った人が、沢山の給与を得る」、「多くの給与が欲しければ、それなりの役目を担うこと」というメッセージがあります。
 
組織の中での、役割(役職)の数は限られています。この『役割に対する給与が決まる』ことで、会社の給与総額が、コントロールされることになります。
 
例:経営層は全体の5%。管理者層は15%。判断層20%と作業層60%。この割合で人件費総額を配分する。
 
成果報酬型の給与体系も、『その役割のなかでの成果の達成度』という意味では同じ『役割に対する給与』となります。
 
 
組織の四階層が、しっかり機能するための仕組みづくりを進めます。そして、その機能を強化するために、給与体系という施策を導入することになります。ここでもやはり、仕組みと組織づくりが基盤になるのです。


年商数億円から年商10億円に進むときに、お金の構造はどのように変化するのかを確認します。
 
会社が成長するとは、次の状態を意味します。
・売上げが大きくなる。
かつ
・生産性(一人当たりの粗利高)が高まる。
 
そして、その時、人件費に関する係数は次のように変化します。
【会社が成長する時】
・人件費総額が増える。
・社員の給与平均は上がる。
・労働分配率は下がる。
 
「儲ける効率が高まり、社員もその配分を多く受ける。そして、利益もしっかり出る。」これは、会社も社員もハッピーな状態と言えます。我々が、目指すところとなります。
 
逆に、会社が成長しない、すなわち、現状維持の時には次の状態になります。
・売上げはそのまま。
・生産性は(一人当たりの粗利高)そのまま。
 
そして、人件費に関する係数は次の通りです。
【会社が成長していない時】
・人件費総額は変わらない。
・社員の給与平均も変わらない。
・労働分配率も変わらない。
 
経営というものを考えた時には、この「成長させないという方針も有り」となります。社会の変化から、別の会社(事業)を伸ばすことを優先します。
 
 
冒頭のN社長は、会社が成長する時の状態を見て、言葉を述べました。
「当社は、ここ数年、売上げは増えていません。そして、生産性(一人当たりの粗利高)も増えていません。当社は、ここ何年も全く成長していないのです。」
 
それだけでは、ありません。
「人件費総額は増えている」、「社員の給与平均は増えている」、「労働分配率も高くなっている」のです。これは、厳しいはずです。
 
N社は、ここ数年、これらの人件費に関する値が悪くなり続けています。それは、健全とはほど遠い状態です。その理由は明確です。
 
一つは、事業モデルにあります。事業は、工賃で稼ぐ生産性の低い事業を行っています。また、材料の値上がりを価格に転嫁できていません。生産性の低いうちに、人数を増やしてきてしまったのです。
 
そして、経費も増えています。経費は、社員が十名を超えるころから、急激に増えることになりました。まず、有給休暇の取得が始まります。そして、携帯電話や車も会社支給に切り替えていきます。
 
そこに、根本的に「仕組みの発想がない」ことが圧し掛かります。各部門で『業務の効率化』が進みません。社員は、毎年同じ作業を同じやり方でやっています。昨年と同じ手順で梱包をしています。同じスタッフ数で同じ作業量をこなしています。
 
事業モデルが年商数億円のものであり、仕組みの発想が全く無いのです。これでは、『成長する』はずがないのです。「売上げが大きくなること」も「生産性が高くなること」も、ないのです。
 
 
N社長が、頑張っていなかった訳ではないのです。
集客のために、ブログの連載を行い、ネット広告を始めました。社員を育成するために、社内勉強会を毎月やっています。それらが、経費増に拍車をかけていました。
 
N社長は言われました。
「矢田先生の本を読み、やっと気づけました。私は、成果の出ないところで動いていただけなのです。」
 
そして、給与は、同じ規模の同業他社と比べ高めに払っていました。全社員に対し、毎年昇給を行っていたのです。若い人は毎年一万数千円ほど、50代でも数千円の昇給です。
 
これは、『役割に見合った給与』ではありませんでした。作業層の社員に、30万円、40万円という額を支払っていたのです。
 
N社長は、自社に魅了が無いことを解っていました。社員を引き留めるためには、給与を高くしなければと思っていたのです。
 
それでも、N社の退職率は高いものがありました。「若い人を採用し、2、3年の仕事を覚えたころに退職」を繰り返していたのです。
 
その結果、採用を続けても、全体として人数が増えることもありませんでした。そして、歪な組織構成が出来上がりました。社歴30年以上という大ベテラン2名、10年が2名、そして、入社3年以内が10名という状態です。
 
今月、大ベテランの一人が定年退職を迎えます。N社長は、もう一年延ばせないかとお願いをしました。しかし、断られました。すでに数年延ばしてもらっていたのです。
 
そのベテランが抜けると、業務が回るか心配です。若手の指導も担ってもらっていました。しかし、人件費の面からみると、正直助かります。そのベテラン一人の給与は、若手二人分です。これで、少し時間が稼げます。
 
N社長は、現在、事業モデルの変革に取り組んでいます。3か月が経ち、ようやくそれを見つけることができました。この事業モデルであれば、生産性は1千万円を超えるはずです。
次は、社内の仕組みと、その仕組みを作り変える組織作りに取り掛かります。
 
 
会社というものは、生み出されたら最後、成長するしかありません。
成長することでしか、社員の給与を増やすことはできないのです。また、人数を増やすことでしか、彼らを役職にあげることもできません。
 
大きくすることを宿命づけられているのが、会社なのです。
 
毎年、売上げを増やすこと。
毎年、生産性を高めること。
そして、人件費総額も増やすこと。
 
その時の労働分配率の目安は、40%となります。
 
社長には、そんな会社をつくる役割があります。
それが『縦の分業』となります。
 
その役割を果たしているからこそ、自信を持って役員報酬を得ることができます。

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