No.472:なぜ社員は動かないのか。なぜ会社は変われないのか。変革を進めるために最も重要なものとは?

№472:なぜ社員は動かないのか。なぜ会社は変われないのか。変革を進めるために最も重要なものとは?

F社長に対する最初の印象は最悪でした。
 
2年前の街から人がいなくなった暑い日に、オンラインにて面談を行いました。
モニターの向こうには、社長と3人の幹部が座っています。
F社長は言いました。
「事前に彼らにも先生の本は読ませています。」
 
私が何かを説明すると、いちいち幹部のほうを向き「解ったな」と発言があります。
それに対し、その幹部らは微かに頷きます。
 
この時、私の頭の中には「断ろうかなぁ」との考えが過っていました。


仕組みとは、「人をある狙い通りに動かす仕掛け」です。
そこには再現性があり、いつでもその効力を発揮してくれます。
 
我々は、その仕組みによって「人を動かす」のです。
社長とは、仕組みを使って人を動かすプロフェッショナルと言えます。
会社とは、その会社が過去に作ってきた仕組みの総和となります。
その会社では、誰しもがその仕組みの恩恵を受けて仕事をしています。
 
会社において、その仕組みが出来ていないと、やはり不具合が起きることになります。
・社員が、月末に行う顧客への報告を忘れていました。
・現場が勝手に、製品の確認を省き出荷していたことが判明しました。
・営業担当から事務員への引継ぎミスで、違う部品を発注してしまいました。
忘れる、怠ける、ミスをする、ということが起きます。
 
ここで正しく認識する必要があります。
それは「そうなるのが当然」ということです。
 
仕組みが出来ていない状態とは、「人間は素のままになる」ということを意味します。
忘れる、怠ける、ミスをする、これが本来の人間なのです。
 
ですから、その状態に入れば、「必ず忘れる」、「必ず怠ける」、「必ずミスをする」のです。
「必ず」、そうなるのです。
 
御社に入れば、ある確率でその業務を忘れるように出来ているのです。
御社に居れば、「やらなくてもいいかな」と怠け心が出るように出来ているのです。
御社で働けば、ミスをするように出来ているのです。
 
ここで正しく認識する必要があります。
『彼らは、悪くない』ということを。
 
人は誰しもがしっかり仕事をやりたいと思っています。人は誰しもが周囲から当てにされたいと思っています。望んで失敗しているわけでも、進んでミスをしているわけでもないのです。
 
『彼らは、何も悪くない』
これが、仕組みづくりに取り掛かる者としての心構えとなります。


そのうえで、このように会社を作り変えなければ、なりません。
忘れる、怠ける、ミスをする、其々に対して仕組みを施すのです。
 
・忘れられないように仕組みをつくる
その時期が来たら、アラームが鳴るようにしておきます。「お客様に報告する時期ですよ」、「ホームページを更新する時期ですよ」と。社員が完全にそれを忘れることを前提に、確実に「思い出す」状況を仕込んでおくのです。
 
・怠けられないように仕組みをつくる
製品の確認を終えたら上長に報告するようにします。また、判断に迷った時に気軽に相談できるように、毎週のミーティングを設計します。そして、定期的に勉強会を行い、その手順とその重要さを確認します。「やらなくてもいいかなぁ」という思いが微塵も浮かばないようにします。
 
・ミスできないように出来ている
伝え間違いや聞き間違いが無いように、書面でやり取りをするようにします。シートを整備し、記入項目、経路、そして、チェック欄を設けます。
また、日常業務において、「指示を受ける時はメモを取る」、「指示を復唱すること」を習慣にします。
 
「人間はそういうもの」、「彼らは悪くない」
この前提のもと、仕組みを作っていくのです。
 
この前提があるからこそ、怒れることもなく、ストレスを抱えることもありません。
そんな社長だからこそ、彼らも素直に解らないこと、できないこと、負担に感じることを相談してくれるのです。その結果、仕組化が益々進むことになります。
 
逆に、この心構えが無いと、大変なことになります。
 
社長の心の中は、絶えず「なぜやらないのだ」と彼らを責める気持ちに占拠されます。
そのストレスに社長自身が疲れていきます。
また、その社長の様子に、社員は口を閉ざすようになります。問題に気づいていても口に出さないのです。それをすれば、自分が責められることは解っています。
その結果、仕組化は一向に進まないことになります。
 
そして、それが行き過ぎると『外部の力』を借りようとします。
研修会を開き、自分の代わりに社員に厳しく言ってくれる講師を招きます。それに社員も「お前ら気づけよ」という社長の意図を感じることになります。
仕組化が進まないどころか、益々社員との信頼関係を失っていきます。


冒頭のF社長の心の在り方は、そのようになっていました。
そして、F社の社長と幹部と社員との関係もそうなっていました。
 
私の、F社長に対する最初の印象は最悪でした。いえ、正確にはF社に対してです。
そこには、信頼関係は感じられません。
「お前達がやるのだぞ(出来ていないのはお前達が原因だ)」と思っているF社長と、「社長がまた変な(コンサルタント)のを連れてきたぞ」と思っている幹部がいます。
その関係が、オンラインの面談でも解ってしまうのです。
 
このまま行けば、F社長もF社の社員も報われることは絶対にありません。私のお節介心に火が付きます。
 
そんなF社長にも、すぐに変化が起きました。
コンサルティングが始まり4、5カ月後には、社長の視点や発言が変わってきました。
 
問題が起きた時に、「仕組み」の原因を探るようになっていったのです。そこに社員を責める発言はありません。F社長の口から「こんな仕組みの無い状況で、彼らは良くやってくれています。」という言葉も出るようになっていました。
 
もともと自頭も良く、心根の真っすぐなF社長です。
正しい考え方に触れれば、すぐにそれを取り込んでいきます。
そんな社長に応えるように、幹部や社員も変わり始めました。
 
コンサルティングの場でも、次のやり取りがありました。
F社長、「これは社長である私の仕事です。明日中につくるから意見をもらえますか。」
幹部、「解りました。しかし、本人(素行の悪い社員)には私のほうから伝えるようにします。」
 
そして、その3か月後には、F社長は幹部を連れてこなくなりました。
「彼らには、会社をしっかり回してもらえれば十分だと気づきました。」
社長一人でコンサルティングを受けるようにしたのでした。
 
 
これは良く起きる現象です。
 
私は、コンサルティングの成功率は「社長お一人」が一番高いということをお伝えさせていただいております。それは社長の中に「自分で理解して、自分で彼らを巻き込んで、自分でやり切るしかない」という心構えができるからです。
 
それが、複数名でコンサルティングを受けるとどうでしょうか。
どうしても「依存心」や「怠け心」が生まれやすくなります。幹部に対し、「解ったな」、「やっておいてね」という思考になってしまうのです。
 
また、ひどいと本来社長が作るべきものを幹部に丸投げすることもあります。その結果、「幹部が出来て社長には出来ない」という状態になります。会社の根幹となる仕組みを、その幹部が作って回している状態になるのです。それは「その幹部が会社の大きなリスクになること」を意味します。
 
F社長は、言われました。
「先生のプログラムを受けて気づきました。全部私なのです。会社のすべてを自分で変えられることが解りました。」
どこまでも誠実なF社長です。
 
(まとめ)
・人は本来「忘れる」「怠ける」「ミスをする」生き物であり、必ず間違える。その一方で、「いい仕事がしたい」「人の役に立ちたい」と思っている。
・彼らは悪くない。責められるべきは、仕組みに向かっていない会社全体の思考である。
・会社のすべては「社長」によってつくられる。それゆえに会社を変えるのも「社長」次第となる。
・会社は社長一人の力で、いかようにでも変えることができる。覚悟を持つこと。

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