No.480:なぜ小さな会社の仕組化は進まないのか?

№480:なぜ小さな会社の仕組化は進まないのか?

精密加工業H社の仕組みづくりの歩みは非常に遅いものでした。
 
私は、いつもの質問をします。
「その問題を解決するために、何をする必要がありますか?」
H社長は間を置かずに答えます。
「営業部全員にもっと責任感と危機感を持ってもらう必要があります。」
 
私は、二つ目のいつもの質問をします。
「では、まずは何から手を付けますか?」
H社長はまた間を置かずに答えました。
「営業部員を集めてミーティングをします。そこで強く言います。」
 
H社の仕組化には、まだ時間が掛かりそうです。


社長は、「仕組みづくりに関する能力」を二つ、身に付ける必要があります。
 
一つは、『仕組みの設計』の能力です。
「人を動かすためにどのような仕組みを作ればよいのか」を設計する能力です。
 
人には、怠ける、忘れる、間違える、という三大特性があります。
この特性に対し、仕組みにより対策を施す必要があります。
・社員が怠けないように「上司への報告」を義務付ける。
・道具の積み忘れを無くすために「一覧とチェック表」をつくる。
このように、人間の特性に対し仕組化することで、それら人の特性の発生を「予防」することができるのです。
 
もう一つは、『仕組化の実行』の能力です。
「実際にどのように仕組化を進めるか」というプロセスを考え実現する能力です。
 
会社においては、仕組みづくりこそが社員の仕事です。そのためには社員を巻き込み、そして、彼ら主導で運用される状態にすることが必要になります。
・担当者と案件進捗管理表を改善し、自分も立ち合いその部でその読み合わせを行う。
・若手社員に素案をつくらせ、それをもとにその部で打合せをして展開をする。
このように仕組化のプロセスを踏むことで、社員を仕組化に巻き込み、そして、仕組みで考え仕組みをつくる社員に育てることができます。


年商数億円から年商十億円に進むときに、社長は絶対にこの二つの能力を身に付ける必要があります。
『仕組みの設計』と『仕組化の実行(プロセス)』、この二つは、自分が『職人』として回せている規模までは必要ありませんでした。そして、それが年商3億円(粗利で数千万~1億円)、社員十名を超える頃にその限界がやってきます
 
その問題は、やはりこの二つの能力が無いことに起因します。
「仕組みが設計できない」、「仕組づくりに社員を巻き込めない」のです。
その結果、その規模での停滞を余儀なくされることになります。
 
冒頭の精密加工業H社がまさにその状態にありました。
そして、H社長はその能力の獲得の過程にありました。
 
この日の相談内容に、営業部門内で起きた問題があります。
・数名の営業担当者が後工程である営業事務担当者に、必要事項を未記入の状態で書類を渡していました。そのため、営業事務担当者に大きな負担となり残業が増える原因になっていました。また、それによる不良品も発生していました。
業績が芳しくないH社にとって、これは早急に対策が必要なことです。
 
H社長は、そこまで説明し、最後に次の言葉を述べました。
「営業担当の社員達には何度も言っているのですが」
 
私は訊きました。
「その問題を解決するために、何をする必要がありますか?」
H社長は間を置かずに答えました。
「もっと責任感と危機感を持ってもらう必要があります。」
 
この「言っている」という言葉は仕組化が苦手な社長が使う典型的な言葉です。
他には「徹底する」、「強化する」というものがあります。
 
私は、再度お聞きします。
「どのような仕組みが必要ですか?」
 
頭の良いH社長です、すぐに気づきました。そして、少し考え言い直されます。
「業務の流れには問題はないと思います。シートの絶対に記入が必要な項目の色を変えて目立つようにします。」
H社長の脳は変わり始めているようです。
ここでは、この施策が本当に有効かどうかは問題ではありません。仕組みの発想になっていることが重要なのです。
 
私は、もう一つの質問をしました。
「では、まずは何から手を付けますか?」
H社長は答えました。
「営業部員を集めてミーティングをします。そこで強く言います・・・。」
そこまで言ってH社長はクスリと笑いました。
「昔の私なら、そう言っていました。」
そして、姿勢を正しました。
「まずは営業事務の社員にそのシートの案を作ってもらいます。そして、営業部全員に説明してもらいます。その時には私も同席します。また、定着するまではその実施状況を週例で確認するようにします。」
 
GOOD!!
 
なぜ小さな会社の仕組化は進まないのか?
その原因は大きく三つあります。
一つは、「設計できない」のです。
「どんな仕組みをつくればよいのか」解らないのです。
 
二つ目は、「仕組化の実行ができない」のです。
「どのように社員主導で仕組化を進めればよいのか」そのプロセスを構築できないのです。
 
そして、三つ目です。
それは、「社長自身の脳が仕組みに向かっていない」からです。
問題が起きた!→仕組みを!という繋がりが無いのです。
その代わりに、自分で動いたり、対処どまりだったり、人を正してみたりと、違うものに向ってしまっているのです。
 
この三つ目こそが根本原因なのです。
なんとしても仕組みに向かう脳をつくる必要があります。
 
しかし、その時に「仕組化しよう、仕組みの発想をしよう」と意識してもダメなのです。
当然、社長自身にも人としての特性があります。忘れるのです。怠けるのです。
そんな脳に刺激を与え、脳の回路を繋げる必要があります。
 
その最も有効な手が、実際に「仕組化」を体験することです。
実際に仕組みの設計を自分で考え、その仕組化のプロセスを考え実行します。その結果、実際に社員が動く、実際に仕組みが出来る、それを見るのです。そして、社員が変わり、業績が良くなるという恩恵を感じることです。
この体験こそが一番早く、そして、確実に社長の脳を変えることになるのです。
そして、それを数回繰り返すことで、仕組みの発想は習慣になり、仕組化の力は武器になります。
 
 
まとめです。
 
社員に「意識しろ」と言うことが無駄なように、社長も仕組みづくりを意識してもダメなのです。精神力で何とかしようとしてはいけません。
 
仕組づくりのできる社員を育てるためには、社員を仕組みに載せることです。それにより、仕組みに染まっていきます。これが一番の仕組みづくり社員の育成方法です。
 
それと同様です。
社長は、実際に仕組みを作ってみることです。それも、社員を使って仕組みを作ってみるのです。それにより社長は仕組みづくりを体得できるようになります。
 
仕組みを設計する、社員によって仕組みづくりを実行する、
すごいもので、社長というものは、その1回の体験で変わってしまいます。

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