No.577:数字目標を出させても責任感は生まれない
特殊加工業のM社長が、こう言われました。
「責任感と危機感を持ってほしい。だから各部署の責任者に、数字目標を出させることにしました。」
ここ数年、M社の業績は厳しい状況が続いています。
施策は打っているものの、そのスピードは遅く、回復の兆しが見えていません。
私は、手元の書類に目を落としながら、こう言いました。
「これでは、彼らに責任感も危機感も生まれません。」
多くの社長は、こう考えます。責任を持たせれば、人は動く。しかし現実は、逆なのです。
「責任」の前に、「行動」を理解しているか
社員に数字目標を出させても、責任感が生まれない理由は単純です。
人は、「何をすれば成果につながるのか」が理解できていない仕事に、責任を持つことはできません。
M社の責任者たちも同じでした。
彼らは数字を出しています。
しかし、その数字を達成するために、
・何を変えるのか
・どこに力を集中するのか
・具体的に何からやるのか
これを具体的に描けていませんでした。
行動が見えていない目標は、単なる数字です。
そこには、自分がどう動くのかという実感が伴いません。
結果として、人は動けなくなります。
そして動けない状態で評価や指摘を受けると、人は『説明』を増やします。
それは『言い訳』という名の説明です。
当然、その説明が増えても、行動は変わらないのです。
M社が抱えていた背景
M社は、長年にわたり指示型のマネジメントで運営されてきました。
現場は、決められたことを正確に実行することを求められてきたのです。
その結果、責任者たちは、自ら考えて判断する経験をほとんど持たずにいました。
そこへ、M社長が就任します。
先代から事業を引き継ぎ、1年が経ちました。
M社長は、組織の停滞を「人の問題」とは考えませんでした。
考えた経験がないことが根本的な原因だと捉えたのです。
そして、各部署の責任者に数字目標を出させる取組みを始めました。
しかし最初に出てきたのは、数字だけで、行動がすっぽり抜けた計画でした。
それは当然の結果です。
長年、指示で動いてきた組織が、突然「自分で考えろ」と言われても、すぐに変われるものではないのです。
人はいつ責任感を持つのか
では、人はいつ責任感を持つのでしょうか。
それは、「自分で考えたとき」です。
人は、与えられた仕事をこなします。
しかし、そこに強い当事者意識は生まれません。
一方、自分で考え、選び、決めた仕事は「自分の仕事」になります。
この瞬間に、人は初めて責任を引き受けます。
その差は、日常の社内にも表れます。
社員が社長に相談に来たとき、多くの社長はすぐに答えを出してしまいます。
答える前に、必ずすべきことがあります。
「あなたはどう考えますか」
この問いがなければ、社員は考える習慣を失います。
やがて、「分からないことは社長に聞けばいい」という組織になります。
考える機会を失った組織は、指示には従いますが、主体的には動きません。
そして主体性を失ったとき、責任感も同時に失われていきます。
数字が思考の材料になる
M社の変化は、小さなところから始まりました。
ある部署で、管理者と社員たちが、自主的に改善ミーティングを始めたのです。
社内で使われる言葉が変わり始めます。
「どうすればいいですか」
ではなく、
「こう考えているのですが、どう思いますか」
という発言が出てくるようになったのです。
これは大きな変化です。これは、その見かけ以上の変化です。
答えを求める組織から、考える組織へと変わり始めた瞬間なのです。
さらに、その部署では数字の扱い方にも変化が生まれました。
以前は、数字は「達成しなければならない目標」でした。
しかし今は、数字をもとに
・どの工程を変えるのか
・どの顧客に集中するのか
・何をやめるのか
こうした議論が起きるようになったのです。
数字がプレッシャーではなく、思考の材料に変わったのです。
それに合わせ、M社長の中でも、「責める数字」ではなく、「考えさせる数字」に変わっていったのです。
責任感を求める前に、考えさせる環境を整える。
ここで重要になるのが、社長の姿勢です。
社員に考えさせるためには、時間が必要です。
答えを教える方が早く、結果が確実に見える場面もあります。
しかし答えを与え続ければ、組織は社長の思考力に依存し続けます。
社長が待つ時間は、組織が考える力を取り戻す時間です。
M社は、まだ変革の途中です。
それでも、組織の質は確実に変わり始めています。
責任感を求める前に、考えさせる環境を整える。
これは遠回りに見えて、最も確実な成長の道です。
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矢田 祐二
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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