No.611:名刺を見れば、その会社の弱さがわかる──事業定義がなければ、何も始まらない

№611:名刺を見れば、その会社の弱さがわかる──事業定義がなければ、何も始まらない

先日、セミナーを開催しました。
会場では、沢山の社長と名刺交換をさせていただきました。
 
名刺交換の時、私は名刺を確認しています。
その殆どは、何をやっている会社か、何を売りとしている会社かが分かりません。
 
会社名、役職と名前、住所、とURL。
と、建設業、広告代理店、システム開発と。
 
私は、その名刺を見ながら思うのです。
「ああ、私のお客様がたくさん来られたな。」(笑)

事業定義とは何か


事業定義とは、自社が「誰に、何を提供し、何を実現する会社なのか」を明確にすることです。事業定義には次の4つの要素で構成されます。
 
顧客:誰を対象とするのか。
課題・欲求:その顧客は何に困り、何を求めているのか。
独自のサービス:その課題や欲求に対して、自社は何を提供するのか。
実現すること:その結果、顧客をどのような状態にするのか。
 
この4つを、一つの文章にします。
 
例えば、当社の場合。
「年商数億円の社長に対して、年商10億ビジネス構築コンサルティングを提供し、社長が現場を離れても、仕組みで回り、成長し続ける会社をつくります。」
 
「年商数億円の社長」という言葉には、すでに顧客とその課題が含まれています。
社長が現場を抱えている。社員が育たない。会社が大きくならない。売上が社長個人の能力に依存している。
そうした会社に対して、私が25年かけ開発した、成功率8割以上の、年商10億ビジネス構築コンサルティングを提供します。
その結果、事業モデル、仕組み、組織が出来、社長が現場を離れても成長し続ける会社にします。
 
私は、そのために存在しています。
当社の社員も同様です。
そして、すべての仕組みが、それに向けて最適化されています。

事業定義がなければ、仕組みも組織もつくれない


私は、仕組化や組織構築の重要性を繰り返しお伝えしています。
そのためには、まず決めなければならないことがあります。
それが、事業定義です。
 
仕組みとは、再現性を高め、量産するためのものです。
ある成果を、特定の優秀な社員だけでなく、誰でも一定の水準で出せるようにする。そして、その成果を10倍、100倍へと増やしていく。これが仕組みの役割です。
そして、組織とは、その仕組みを運用し、改善し、成長に合わせて変えていくための機能です。
 
では、何を再現するのでしょうか。何を量産するのでしょうか。
何に向けて、仕組みを改善するのでしょうか。
その全ての向かうところが、事業定義になります。
 
事業定義が曖昧なまま仕組化に取り組んでも、何を標準化すべきかわかりません。
事業定義が弱いまま組織をつくっても、どんな人を雇うのか、何を管理し、何を改善するのかが定まりません。
 
事業定義が先であり、仕組みと組織はその後なのです。
この順番を、絶対に間違えてはいけません。

同じ商社でも、つくるべき会社はまったく違う


例えば、建築資材を扱う商社があるとします。
同じ建築資材商社でも、次の3つでは事業の中身がまったく異なります。
 
1.品揃えが豊富な商社
顧客は、一か所で多くの資材を調達したい会社です。
求められるのは、取扱商品の多さ、調達力、在庫管理、物流の仕組みです。
 
2.専門性の高い商社
顧客は、特殊な資材や高度な技術的提案を求める会社です。
求められるのは、専門知識、提案力、メーカーとの関係、技術情報の蓄積です。
 
3.価格の安い商社
顧客は、調達コストを下げたい会社です。
求められるのは、大量仕入れ、業務の標準化、徹底した効率化、低コストで運営できる仕組みです。
 
同じ建築資材商社でも、顧客が違います。そして、求められる機能も違います。
当然、採用すべき人材も、育成の内容も、評価する項目も変わります。
 
間違っても、品揃えを強みとする会社が、価格競争に走ってはいけません。
専門性を強みとする会社が、むやみに商品数を増やしてはいけません。
価格を強みとする会社が、過剰な個別対応をしてはいけません。
 
それぞれが、自社が掲げた事業定義に向けて、徹底的に最適化していくのです。
強い会社とは、何でもできる会社ではありません。一つの事業定義に向けて、すべてが最適化された会社なのです。

当社が大手企業からの依頼を断る理由


当社には、時々、大手企業から問い合わせがあります。
しかし、基本的にお断りしています。
当社は、年商数億円の会社が10億円を目指すためのコンサルティングに特化しています。そのためのプログラムがあり、ノウハウがあり、進め方があります。
 
大手企業の経営課題に対応するようには、つくっていないのです。
我々には、彼らからの社内説明会や報告書作成という要望を聞いている時間もありません。
 
また、クライアントから、こんな相談を受けることもあります。
「先生、人事制度をつくっているのですが、手伝ってもらえませんか。別料金でも構いません。」
これもお断りします。
 
人事制度の基本的な考え方はお伝えします。しかし、制度そのものの設計や詳細な運用支援は、専門の方にお願いしていただきます。
 
その分野には、当社よりも優れた専門家がいます。当社が人事制度の設計まで請け負えば、確かに売上は増えるかもしれません。しかし、そのために新たなノウハウを蓄積し、担当者を配置し、業務を増やす必要があります。
 
その結果、当社の事業は複雑になります。本来の強みを磨くための時間も奪われます。
売上になるからといって、何でも受けてはいけないのです。
 
事業定義とは、何をするかを決めることであり、同時に、何をしないかを決めることでもあります。

事業定義がない会社は、どんどん複雑になる


多くの会社が、顧客の要望に応えようとします。
「こんな商品も扱ってもらえませんか。」「もっと安くできませんか。」「この業務もお願いできませんか。」
 
その一つひとつに応えていきます。
品揃えを強みとする会社が価格競争を始めてしまいます。
専門性を強みとする会社が、専門外の商品まで扱い始めます。
低価格を強みとする会社が、個別対応を増やしていきます。
 
こうして、事業はどんどん複雑になっていきます。
商品が増える、業務が増える、例外対応が増える。必要な人材も増えます。
その結果、仕組化が難しくなり、生産性が落ちていきます。
 
そして、社員もわからなくなります。
「うちの会社の強みは何なのか。」
「どんなお客様を大切にすべきなのか。」
「何を優先して仕事をすればよいのか。」
 
ここで社員を責めることはできません。
そもそも社長自身が、自社の事業定義を正確に説明できていないのです。
社長が説明できないものを、社員が理解できるはずがありません。
社員が理解していないものに向けて、会社全体が動けるはずもないのです
 
事業定義がないから何でも受ける。何でも受けるから、会社が複雑になる。
これが、多くの中小企業で起きていることです。

事業定義を名刺に書きなさい


まずは、自社の事業定義を文章にしてください。
「誰の、どのような課題や欲求に対して、何を提供し、何を実現するのか。」
一つの文章です。
 
そして、その文章を短くして、名刺に書いてください。
会社名の上でも、下でも構いません。
 
「総合建設業」「広告代理店」「システム開発」
これでは、業種を説明しているだけです。何の独自性もありません。顧客に選ばれる理由もありません。
 
短い一文です。その一文には、自社の事業定義が表れていなければなりません。
それが書けないのであれば、まだ自社の事業が明確になっていないということです。
 
名刺は、単なる連絡先ではありません。
 
我社は、何者であるかを示すものです。そこで自社をPRするのです。
そして、その反応で、相手が見込み客かどうかを選別できるのです。
 
そして、その一文が、覚悟の現れになります。
我社がこの専門家です。我々は、このために全力を掛けています。

まとめ:事業定義が、会社のすべてを決める


事業定義が決まれば、顧客が決まり、顧客が決まれば、提供するサービスが決まります。
また、必要な仕組みが決まります。自ずと、必要な人材と組織が決まってきます。
会社全体をその事業定義に向けて最適化することができるのです
 
反対に、事業定義が曖昧であれば、すべてが曖昧になります。
顧客の要望や競合の存在に振り回され、結果、社内の混乱と生産性の低さに陥ることになります。
 
いまこそ、自社が何者であるかを決め、その一つに向けて会社を作り変えることです。
 
ぜひ、ご自身の名刺を取り出してみてください。
そこには、何と書いてありますか。
 
会社名と業種しか書いていないのであれば、事業定義から見直してみてください。
そして、次にセミナーで私と名刺交換をするときには、ぜひ事業定義を見せてください。
 
そのとき私は、こう思うかもしれません。
「ああ、この社長は、私のお客様ではないな。」
それはそれで、少し寂しいのですが。(笑)
 
 
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矢田祐二
矢田 祐二

経営実務コンサルタント
株式会社ワイズサービス・コンサルティング 代表取締役
 
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
 
数億事業を10億、20億事業に成長させた実績を多く持ち、 数億事業で成長が停滞した企業の経営者からは、進言の内容が明確である、行うことが論理的で無駄がないと高い評価を得ている。
 
 

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