No.195:プロ意識がない、プロが育たない。その根本原因は、〇〇という業務をやらせていないから。その結果、社内は作業員だらけになります。

コラム№195

「矢田先生、来期の経営計画書が出来上がりました。受け取っていただけますか。」
 
コンサルティングが終了して2年。
ネット事業を複数展開するF社長は、刷り上がったばかりの経営計画書を矢田に手渡しました。
 
「2年前のあの作業漬けの毎日が嘘のようです。当時は、安定したサラリーを捨て自分で会社を興したことを、後悔ばかりしていました。」
 
(一同笑)
 
隣に座る奥様も目を細めています。


訓練は、過去の踏襲です。その会社が構築したノウハウや仕組みを、次のスタッフが出来るようにする取組みです。
それに対し、教育とは未来の構築です。会社をより発展させるために、スタッフが新たなノウハウの開発や仕組みの改善をできるようにする取組みを指します。
 
より素晴らしい自社の未来を創るためには、社員を教育する必要があります。
未来を創れる社員、改善を本気で考えられる社員、より先まで計画を描くことができる社員を多く持つ会社こそが強い会社なのです。
 
社内の至る所で、社員が未来を読み、手を打っています。
営業担当が、計画を立て定期訪問をしています。技術担当が、製品の図面を見て、不具合を発見します。製造担当が、材料の状況から、マシンの設定を変更しています。指示に対し、明確な期限の回答があります。
各現場には、プロフェッショナルがいます。そのプロフェッショナルが行う「予知」「予見」「予算」「予習」「予防」こそが会社の強さなのです。
 
プロフェッショナルの仕事とは、「予め(あらかじめ)」と言えます。
プロは、材料の状況からどんな変更が必要かを予測することができます。
プロは、お客様企業の状況から、後のクレームになりそうなことを予防します。
プロは、図面からどれぐらいの工期と人工が必要かを予算します。
 
 
二十数年前、矢田はゼネコンに入社し、施工管理に従事しました。
そこには、新入社員を「予め」を持ったプロとして育てるべき『環境』がありました。
・朝礼後に作業班に別れ、その日の作業で「どんな危険があるか」を予測する、危険予知活動を行います。
・〇〇㎥の土を移動し、盛土にするために、どれぐらいの日数が掛かるのかを計算します。移動距離、仮設道路の付け替え、ダンプの台数、使用する重機、車のすれ違い箇所など。そして、悪天候などを折り込み、工程を作成します。
・一日が終わり事務所に戻ると、出来高と人工数の集計をノートにまとめます。自分の手で記録することで、感覚が付きます。
 
そんな毎日を10年重ね、一人前のプロフェッショナルと成ります。
図面を見れば、頭の中で完成した高速道路の姿が描けるようになります。合わせて現地形を見れば、どこから手を付ければよいのか、その工事の順番も描けます。
最大限の自分の予めの能力で、計画を作ります。そして、実際の施工で、自分の読みの甘さを痛感することになります。それの繰り返しです。
その予めと実践の繰り返しで、その精度は高まってきます。検証することで能力は高くなります。
 
そして、更に10年も経過すれば、その「予め」の対象は、広く、長く、詳細まで描けるようになります。
3年の工期のすべてとその順番が、カラーで描けます。
寄せ集めの社員と外注業者をどうチームとして統制をとるかも解っています。闊達さと規律の塩梅も抑えています。
新入社員、若手社員を、潰さない程度に追い込み、成長させることもできます。
 
一人の人間をプロフェッショナルとして育てるためには、「予め」を必要とする環境を与えることが必要です。
「予め」の能力は、計画や準備という業務を自らがすること、そして、その実行との検証でしか身に付きません。
「予め」の能力は、「予め」をしないと伸びないのです。
そして、その「予め」を自らが行うからこそ、自己学習と責任感が生まれます。そして、その結果を見て、悔しいという感情が生まれます。その経験が自信になります。そして、そこに「次こそはもっと上手に」という欲が生まれます。
 
・展示会の企画書を作成させる。そして、運営リーダーをやらせる。
・自社サイトのSEO対策の立案とその実行。そして、検証を依頼する。
・店舗スタッフ向けに新規マニュアルを作成させる。そして、勉強会の講師とその後の定着状況と効果の確認を任せます。
 
これらは、すべて予めの仕事となります。人を育てるためには、これら「企画」や「提案」という「予め」の仕事を与えなければなりません。
これらの仕事を与えないと、プロフェッショナルとして育てることはできません。
これらの予めの仕事を与えない状態を続けると、気づいた時には、立派な作業員が出来上がります。
 
作業員は、その日その時の指示された業務に一生懸命に取り組みます。
スコップを持って穴を掘ります。ハンドルを持ってトラックを転がします。
その予めの広さは、その日に限定されます。そして、日が沈むと、そそくさと帰ります。その時頭には「よく冷えたビール」があります。
 
スコップを持った作業員と同じような、知的労働風の業種は多くあります。
・データ入力やプログラミング、画像作成
・申請書類の作成
・受発注業務、入力業務
これらは、一見知的労働のようですが、ただのワーカーであることが多くあります。これらの業務の中に、自分でスケジュールを立てることや、次の段取りという「予め」がなければ、スコップを持った作業員と同じです。
目の前に流れてきたその日やる作業を、こなす。提出期限の決まった書類のフォーマットに、文字を打ち込むのであれば、それは作業員なのです。
その時頭の中では、週末の旅行やゲーム画面を描いています。
 
この環境でプロが育つわけがありません。立派な作業員を育てているのです。
そして、その社員には、責任感も勉強意欲も湧くことはありません。そして、ミスをしたとしても、心の底から悔しいと思うこともありません。
ましてや、その結果(成果)がどうであれ、抱く感情は変わりません。うまくいっても、手柄は「上司」にあります。ダメでもその責任は「上司」にあります。
 
普段から「予め」の業務を与えていない、作業員として扱っているのに、「人が育たない」と嘆かないでください。ましてや、日々作業をやらせているそのスタッフを外部研修に行かせないでください。
 
予めの仕事を与えてください。そして、検証をさせるのです。
その繰り返しで、人を育てていきます。
そして、いま与えた「予め」が出来るようになったら、より期間の長い「予め」を与えます。または、重要な「予め」、難しい「予め」を与えます。
歩掛から始まり、一つの盛土の工事計画を担わせます。そして、次は、ひとつの工事区域の計画を、そして、工事全体の計画とそのステージを上げさせます。
 
このプロセスにより、新入社員を、一人のプロフェッショナルとして育てていきます。その結果、数十億の工事の施工を仕切る上位職者が複数準備できます。
この「予め」の能力を持つプロフェッショナルを量産するのです。
教育とは「予め」の業務を与える行為であり、教育体系とは「予め」を与える仕組みなのです。
 
「予め」を与えていないところにこそ、無責任と参画意識の無い社員が育ちます。


役職とは、その人が受け持つ「予めの長さ」と言えます。
今現在を起点として、「どれだけ先まで、責任を持つのか」、「どれだけ先まで、読めるか」。これこそが、役職です。
 
新入社員は、その日または翌日までを精一杯こなすのが役目です。
主任は、1か月先までを読みます。補充の資材やメンテナンスの手配をします。生産工程を組み、作業を割り振りします。
課長は、期の課目標を達成するために、計画を立てます。そのために、細かい方針を立て、行動レベルの指示を部下に出します。
部長は、戦略的な発想で3年先までも見越した大目標を立てます。社長に提案し、根本的に仕組みを作り変えます。
 
このように、この先の時間の「長さ」なのです。
 
強い会社では、各部門、各役職が自分の仕事を担っています。
各プロフェッショナルが、自分の受け持ちの中で、未来をどのように作り変えるかを考えています。
そんな会社は、未来を切り開いています。先手先手です。そして、人が育ちます。
その結果、社員は成長と充実感を得ることができます。
 
弱い会社では、各部門、各役職が目の前の案件をこなしています。
新入社員から部長までもが作業員と化し、スコップを持って、目の前の穴を掘っています。たまに、そこに社長の姿まであります。
未来を創る最高責任者である社長までが、汗と泥にまみれています。
そんな会社は、いつまでも下請けとなります。後手後手です。当然、人は育ちません。優秀な社員は、見切りをつけて去っていきます。
 
社長の役目は、会社の未来を描くことです。
どんな場所に、どんな構造物を作るかを決めるのが社長の仕事です。その社長が描いたものを造るのが、管理者や社員の仕事です。
事業の定義、戦略、マーケティングを考える。重点目標と捨てることを決める。
 
新入社員が一生懸命に「その日」を担うように、社長も「その未来」を担う必要があります。
 
そのために経営計画が必要になります。
社長は未来を担う者、その道のプロフェッショナルとして、経営計画を作らねばなりません。それを実行に移し、検証するのです。
その計画と検証の繰り返しで、「予め」の能力は高まってきます。
社長も「予め」という取組み無しには、経営能力は高まらないのです。
そして、その経営計画書を持って、社員に「予め」の仕事を依頼するのです。
彼らは、体を使い「造り」ながら、「創る」ことに頭を働かせます。
 
社長が、スコップを持っている以上、下請けから脱することはできません。生かさず殺さずで、他社にこき使われるだけです。
 
それ以上に、社長自身が、「自分が作った会社」の下請けになってはいけません。
自分のビジネスの奴隷にも、なってはいけません。
 
自分の人生は、自分のためにあります。自分で創るのです。
そのための会社であり、ビジネスです。
 
今日こそは、スコップでなく、ペンを持つのです。

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