No.540:「依存型社員」はなぜ発生するのか──そうならないための“社長の指針”

建設業を営むK社は、年商8億円、社員数30名の会社です。
業績は一見安定しているものの、実態は停滞気味で、会社全体に覇気がありません。
K社長が新しい取組みを始めようとすると、社員からは決まってこんな声が返ってきます。「どうすればいいですか?」「具体的に何をやればいいんですか?」
その態度には、どこか“抵抗感”がにじんでいます。さらに、ルールは守られず、注意すればムッとされます。指示を出しても、黙ってスルーされることすらあります。
その結果、新しい取組みはどれもが自然消滅していくのです。
これはまさに「依存型社員」に会社を乗っ取られた典型的な事象と言えます。
依存型社員と自立型社員の特徴
依存型社員の根底には、「環境が変われば物事は解決する」という考え方があります。
問題が起きても、「自分は悪くない」「会社の仕組みが悪い」「説明が足りない」といったように、常に原因を外に求め、自分を変えようとはしません。あくまでも問題は「自分以外」にあるのです。
口癖は、「○○があればできるのに」、「~だったらなぁ」です。あれやこれやと“できない理由”を考えることにかけては超一流です。
また、依存型の人は、「できるだけ楽をしたい」「リスクを負いたくない」という思いを強く持ちます。その結果、自分を守るために「相手を強く攻撃する」、「自分をオープンにしない」といった態度をとります。
自分から何かを掴みに行くこともなく、ただ日々の作業をこなします。その結果、その本人には「変化」も「成長」もありません。それでその本人は幸せか、というとそうでもないのです。不安やイライラを絶えず抱えています。
一方、自立型社員は、問題が起きたときには、「自分にできることは何か」を考え、自ら動こうとします。口癖は「どうすればもっと良くなるか」「とりあえずやってみよう」です。その姿勢が、自らの能力を高め、周囲の信頼を築くことになります。そして、その精神には充実と安定が宿ります。
会社は「変わる」もの。依存型社員ばかりでは・・・
会社とは、本来変化し続けるものです。顧客の要望は移り変わり、競合は進化し、技術や環境も刻々と変化します。そして、そもそも顧客というのは“わがままな存在”です。
それにどう対応するか、どう工夫するか。それが商売そのものであり、そのための組織であり社員です。
会社とは、常に問題だらけなのです。そこで、依存型の社員ばかりでは、まったく間に合わなくなります。誰も自分を変える気もなく、楽をしたいと思っているのです。その結果、社長一人が多くを抱えることになります。
この状況に対し、下記が建設業K社長の取った対策です。
まず「会議では積極的に意見を出すこと」「人の陰口を言わないこと」といった、基本的な約束事を定めました。加えて、役割や人事評価基準を明確にし、評価を実施するようにしました。しかし、思ったような成果はありませんでした。
そこで、K社長は新たにチェック表を作成し、さらに管理を強化しました。
本来、会社組織は「信頼」で成り立っています。「それぞれがやるべき仕事をきちんとやる」という信頼があってこそ、分業が成立するのです。やはり、この信頼をルールや仕組みで置き換えることは不可能でした。
その結果、社内の雰囲気はより「重く」「暗い」ものになっていったのです。
依存型社員を生み出す環境
人間は本来、誰しもが依存心を持っています。そして、良くも悪くも、周囲の環境の影響を大きく受けるものです。そのため会社が以下のような状態であれば、普通の人でも依存心を強くしてしまいます。そして、依存型社員は益々依存型になっていきます。
・仕組みが無い:業務の流れやその基準がありません。また会社の今後の方針や目標も共有されていません。その状況では、人は考えることをやめ、無気力になっていきます。また、職場での助け合いやコミュニケーションは激減します。
・職場が暗い:照明が暗く、壁が汚れている。あるいは、空間自体が狭い。そのような物理的な環境が、人の心にも影を落とします。
・時間にルーズでだらだらしている:始業時間や会議の開始が曖昧で、全体に緊張感がない。こうした風土は、自律性を奪い、依存を助長します。
・依存心の強い人を採用している:ホームページのつくりや募集内容などで、依存型を集めているかもしれません。また、主体性よりも「従順さ」や「素直さ」ばかりを評価し、結果として、考えない人材を集めてしまっていることもあります。
彼らは自分が「正義」だと思っている
その結果、彼らは自分が正しいと思っています。「会社が何も教えてくれないから」「管理が甘いから」「曖昧な評価基準の中で働かされたから」
その言い訳を与えてしまっているのが現実なのです。
対策:自立型社員が育つ会社にする
では、どうすればよいのでしょうか。
その答えは、シンプルにして明確です。以下の3つに取り組むことになります。
1.採らないこと:自社が依存型に選ばれずに、自立型に選ばれるように見せることです。そして、面談や適性検査などで、そんな人を排除するようにします。
2.仕組みを整備する:社員や各部署が自己完結できるように仕組みを整備します。また、仕組みの改善サイクルをまわし社員を参画させます。それにより、自立型の社員が活躍でき、依存型の社員を居づらくします。
3.依存を助長しないマネジメント:目標とそのための行動計画を明確にします。定期的なコミュニケーションを取ります。ちょうどよい距離感で業務遂行をサポートします。「まあ、いいか」という弱い心が芽生えにくくするということです。
その結果、事業は強くなり、会社も立派になります。そこまでくると、依存型社員は殆どいない状態になります。そして、自立心の強い人が更に集まるようになります。
まとめ:社員が前向きに働ける環境をつくる
依存型社員とは、決して“最初から悪い人”ではありません。彼らは、「そういう環境」によって“依存する人”に成ってしまったのです。
そして、そうさせたのは他でもない、「会社」であり「社長」であるというということです。これは、苦しいですが認めなければならない現実です。そして、そう考えることで道は開けるのです。
環境を変えれば、人は変わると言うことです。
よい環境を作ればよいのです。
社長の仕事とは、『社員が前向きに働ける環境をつくること』。
良い会社をつくることで、良い社員を量産するのです。
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矢田 祐二

理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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