No.562:「やらない社員」を責める会社、「できる仕組み」をつくる会社

№562:「やらない社員」を責める会社、「できる仕組み」をつくる会社

「何度もやれと言っているのです。しかし、なかなかやろうとしません。」
宿泊業を営むK社長が、静かに強い口調でそう言われました。
新しい取組みを現場に任せたものの、なかなか進まないというのです。
 
「マニュアルも渡しました。目的も伝えています。それでもやらないのです。」
K社長の目には、社員の“怠慢”として映っているようです。
 
私はお聞きしました。
「社長、彼らは“やらない”のですか?それとも“できない”のですか?」

「やらない」と「できない」はまったく違う


やらないとは、意思の問題です。できる力も経験もあり、環境も整っているのに、それでも動かない状態を指します。つまり、内面的な姿勢の問題です。
 
一方、できないとは、能力や経験の問題です。やり方を知らない、過去に成功体験がない、あるいは判断基準が曖昧なために動けない。環境と訓練の不足によって起きている現象です。
 
当然ですが、この「やらない」と「できない」を取り違えると、誤った対応になります。
 
多くの会社では、“できない”社員に対して「やれ」と言ってしまいます。社長のその「できて当たり前だ」という態度に対し、「私にはそのやり方が解りません。教えてください。」と返せる社員は殆どいません。それができるのは“それが当たり前でない”と解る優秀な社員か、よほど素直な社員だけです。
 
大半の社員は口を閉ざすか、萎縮して動けなくなります。そして、社長はさらに苛立ち「やる気がない」と決めつけてしまう。この悪循環が、現場の停滞を生むことになります。

距離が大事である


できる社員には、それでよいのです。「任せたぞ」でことが進んでいきます。彼らはすでに自分で判断し、動くことができます。必要とあれば、社長に相談に来ます。
 
しかし、できない社員には距離を詰める必要があります。
例えば、泳げない子どもを、いきなり深いプールに放り込む親はいません。手を添え、足の動かし方を教えます。そして、その時には間違っても怒ったりしません。怒ればますます委縮し水泳が嫌いになります。そして、少しずつ距離を置いていきます。
 
基本はこれと同じなのです。「任せた」「やれ」と言うのは、“泳げるようになってから”です。まずは、手を差し伸べ、やり方を共に確認し、小さな成功体験を積ませることが必要です。

できない人に対する具体手順


次は、できない人に対する具体的な手順となります。
 
1.依頼をする
はっきり「何をしてほしいか」を伝える。営業で成果を出してほしい、部下を管理してほしい。その目的や背景もしっかり共有します。
 
2.具体的な行動を確認する
それを達成するために分解します。「アポイントの電話を10件かける」、「部下と毎日朝礼後の10分でやることを確認する」このように行動レベルまで落とします。
 
3.次の打合せ日時を決める
アポイントを先に取っておきます。これが相手への“強制力”になり、“応援”になります。できない相手ですから、1週間後という具合にそのスパンを短くしておきます。
 
4.間違いなく行う
そのアポイントを取った打合せを絶対に行う。よほどのことがない限り、その約束を変えてはいけません。「俺の依頼は軽くない、君の存在も軽くない」ことを伝えます。
 
そして、2の「次の具体的な行動」を再び確認をします。これの繰り返しで、その依頼事項を確実に遂行させるのです。

支援の密度を調整する


その結果、社員は一度それを“できる”ようになります。能力と成功体験を得ることになるのです。それ以上に、業務を遂行するプロセスを理解することになるのです。
その結果、少し能力が高くなり、自信もでき、やる気も起きます。それを繰り返していくのです。
 
だからといって、すぐに手放してはいけません。何度も繰り返すことで、成功体験が定着し、その行動が安定していきます。難易度が高い仕事の場合は、打合せの頻度を上げます。頻度を上げるのは管理を強化することでなく、“支援の密度”を上げることなのです。
 
やがて、その社員は同じように自分の後輩や部下にも接するようになります。かつて自分がしてもらったように、依頼をし、行動を確認し、打合せを決め、確実にフォローする。
このサイクルを繰り返すことで、「支援の文化」は組織に広がっていきます。

できない社員をできる社員に変える仕組み


つまり、“できない社員をできるようにする”仕組みが再現されていくのです。社長が直接関わらなくても、社員同士の中で支援の文化が根づいていく。ここに、仕組みの本当の価値があります。
 
しかし、逆に社長が放任であると、この流れは完全に途切れます。先輩社員や管理者は「やれ」と言うだけで終わり、確認もなく、結果だけを叱責するようになります。その状態では、社員は学びも得られず、成功体験も積めません。放任のもとで育つのは、自責ではなく“恐れ”です。その恐れが萎縮を生み、会社全体の動きを止めてしまうのです。
 
支援を仕組みに変えるか、放任を常態化させるか。
その差は、ほんの数回の打合せ、数分の確認にすぎません。
しかし、その積み重ねが、会社の文化を決定づけます。

まとめ


社員が動かないのは、「意志」が弱いからではありません。
単純に能力がないからです。その状態で放任され、その状態で責められているのです。その結果、本人は社長への信頼を失い、やがて退職に至ります。
 
正しい距離感、正しい支援をすることで、その社員は確実に成長できます。
そして、社長への信頼感も持つようになり、その社員が部下を育てるようにもなるのです。

提言:社長から始める


支援の仕組みは、自然には生まれません。最初の一歩は、社長自身が動くことから始まります。
「依頼する」「確認する」「打合せを決める」「必ず実行する」
この4つの行動を、まず社長が行うのです。そして、繰り返すのです。
 
それが見本となり、会社の標準になります。やがて社員はそれを真似し、「仕組み」として再現していきます。
 
最初にやるのは、ほかでもない社長自身です。
「仕組みで回る会社」の根本には、社長がいるのです。
逆を言えば、社長の行動を変えるだけでそれは成されるのです。
 
 
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矢田祐二
矢田 祐二

経営実務コンサルタント
株式会社ワイズサービス・コンサルティング 代表取締役
 
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
 
数億事業を10億、20億事業に成長させた実績を多く持ち、 数億事業で成長が停滞した企業の経営者からは、進言の内容が明確である、行うことが論理的で無駄がないと高い評価を得ている。
 
 

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