No.566:職場がギスギスする本当の原因は、人ではなく会議の欠如である
製造業S社長からの相談は今回も「人間関係」でした。
「最近、製造と品質がギスギスしていて…」
「現場リーダー同士の空気も悪いのです」
社長自身も、そこに囚われてしまっています。
私は確認しました。
「社長、会議ってやっていますか?」
S社長は少し考え答えました。
「いえ、ほとんどやっていませんが。」
誤解:人間関係は“人の性格”で決まると思っている
多くの社長は、人間関係の悪化を「性格」「相性」「人間力」の問題だと捉えてしまいます。しかし、それは全くの間違いです。
人間関係は “環境の産物” です。
環境とは仕組みであり、その最たるものが会議です。
会議が無い社会や部署では、人間関係が必ず悪くなります。
原則:人間は、話さなくなると精神が腐る
そもそも人間は、話すことで安心し、話し合うことで関係を保つ生き物です。
そして、話すことで人間は成長発展をしてきました。
話さない状態が続けば、人の内面は以下のように悪化します。
・不安が増す:どう思われているか分からない、自分は正しいのか分からない
・孤立感が強まる:自分だけが大変だ、誰も理解してくれない。
・悪い解釈が始まる:あの人は自分を嫌っているに違いない
・感情が硬直する:怒り・不満・不信が溜まり続ける。
・相手を“モノ”として扱う:「製造の人」「品質の人」・・・冷酷になる。
・沈黙する:本音を言わない。能面となり感情を出さない。
これが、話さない、話し合わないことで起きる“人間の本来”なのです。
組織で起きる問題
この人の精神の悪化は、必ず“組織現象”として表れます。
・分断が起きる:部署ごとに認識のずれ、自分達で調整しない。
・対立が生まれる:小さな行き違いが“大きな衝突”へ育つ。
・責任の押し付け合い:それはそっちの部署の仕事(責任)だろ。
・指示待ち社員の増加:自発的に発言も行動もしない。
その結果、職場には覇気がなく、淀んだ空気が漂うことになります。
そして、
・高い退職率(優秀な人、若い人)、病む社員も発生。
・根本的な問題解決がされない“モグラ叩き”状態
・品質問題・納期遅れでクレームの発生
・当然、社員は育たない
このようにして、会社は確実に悪くなっていきます。
それは、会議がないからです。人間本来の話す、話し合うという場がないのですから当然の結果なのです。
会議とは「関係のメンテナンス」である
会議を開く目的は大きく3つあります。進捗確認、課題解決、情報共有。
そこでは「社員の精神とその関係性のメンテナンス」という効用が働いているのです。
会議とは次のようにも定義できます。
会議とは、情報・意図・感情という“ズレ”を修正し、組織を健全な状態に戻すための仕組みである。
組織は目的に向かって「分業」しています。分業すれば、必ずズレが生じ、摩擦が生まれます。それを解消する場こそ会議なのです。そういう仕組みなのです。
S社長への提案とその後の変化
私はS社長に、無理のない第一歩と思える提案をしました。
「製造部だけでも、毎週30分でいいので会議をやってはどうですか。」
1か月後、S社長は嬉しそうにその結果を報告してくれました。
「雰囲気は格段に良くなりました。話し合いの中で、社員から意見が出るようになりました。いがみ合っていた二人の関係も、明らかに改善しています。」
そして最後に、こう付け加えました。
「人の問題だと思っていましたが、違いましたね。」
はい、その通りです。
まとめ:社内会議の再設計を
人間は、話せば主体性が生まれ、話し合えばその関係性が整います。
ただ、それだけのことなのです。
逆に言えば、話し合う場がなければ、どれほど良い社員達でも誤解し対立します。
会議がある会社は、人間関係が安定する。
会議がない会社は、人間関係が悪化する。
これは、経営論というより 人間社会の原理原則 です。
ぜひこれを機会に、社内の会議をもう一度、設計し直してください。
会議はただ“業務のため”にあるのではありません。
人が協力し、組織が健全に回るための土台なのです。
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矢田 祐二
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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