No.574:こんなことが起きるのか──顧客満足を言い出した途端、現場が暴走する

№574:こんなことが起きるのか──顧客満足を言い出した途端、現場が暴走する

「先生、最近、現場が勝手なことをし始めたのです。」
そう相談に来られたのは、旅行サポート業を営む N社長でした。
移動手段の手配やその調整を行い、顧客からの評価も悪くありません。
 
「お客様に喜んでもらおう、顧客満足を最優先にしろ、と言ってきました。」
 
ところが、その直後から、契約に含まれていない対応を独断で引き受けたり、料金の説明を曖昧にしたまま「今回は特別です」と対応したりするケースが増えたと言います。
 
N社長は、少し困った表情でこう言われました。
「顧客満足を求めた結果なのは分かるのですが…」

問題は「顧客満足」ではありません


この時、多くの社長は、こう考えてしまいます。
「顧客満足を履き違えている社員が悪い」
「教育が足りないのではないか」
 
しかし、これは本質ではありません。
問題は、顧客満足そのものではありません。
 
問題の根本は、顧客満足を“判断基準”として、そのまま現場に渡してしまったことにあります。

原則:基準を渡されなければ、人は勝手に判断します


人は、「目的」だけを与えられると、必ず自分なりの「正解」をつくります。これを「解釈」と表現したほうが解りやすいでしょうか。
 
・顧客満足とはなにか
・どこまでやっていいのか
・どこからがやりすぎなのか
これらが決まっていない状態で、「顧客満足を高めろ」と言われれば、現場は自分の価値観や経験、感情をもとに判断するしかありません。その結果、人や現場ごとに異なる「正義」が生まれます。その結果、対応はバラバラになり、会社としての一貫性が失われていきます。
 
N社でも、まさに同じことが起きていました。ベテランは「ここまでやるのがプロだ」と考え、若手は「断ったらクレームになるのが怖い」と動く。
誰かが悪いわけではありません。皆やる気はあるし、本気でお客様の役に立ちたいと考えています。そこには、基準がなかっただけなのです。

社員が暴走する会社の共通点


顧客満足が、会社にとって“厄介なもの”に変わる会社には、共通点があります。
整理するとこうなります。
 
① 顧客満足が「言葉」だけで、定義されていない
→ 何をもって満足なのか、共通認識がない。
 
② 判断権限の範囲が決まっていない
→ サービスや仕組みを、どこまで現場で変えていいのか不明確。
 
③ 会社として「やらないこと」が決まっていない
→ 善意が歯止めなく広がる。
 
顧客満足が問題なのではなく、設計されていないことが問題なのです。

顧客満足は「想い」ではなく「設計」


顧客満足は、想いや気合いで高めるものではありません。
・スローガンではなく、基準として定義する
・善意に任せるのではなく、ルールに落とす
・属人的な対応ではなく、仕組みにする
 
たとえば、旅行サポート業であれば、
・無償対応はどこまでか
・例外対応は、誰の承認が必要か
・どこから先は「有料です」と言ってよいのか
 
ここまで決めて、初めて『顧客満足に再現性』が生まれるのです。

提言:顧客満足を語る前に、社長が決めるべきこと


社長が最初に決めるべきなのは、「どうやって喜ばせるか」ではありません。
「何をしないか」なのです。
 
そこを決めない限り、顧客満足は美辞麗句のままであり、現場の混乱を増やし続けることになります。

まとめ:顧客満足にも再現性を


顧客満足を言い出した途端、現場が勝手なことをし始めたとき、
それは、社員の問題ではありません。
決めるべきことを、決めていないだけです。
 
顧客満足は「想い」ではありません。「構造」であり、「設計」するものなのです。
だからこそ、顧客満足には再現性が生まれ、改善を積み上げることができるのです。
 
設計された顧客満足は、会社を強くします。
設計されていない顧客満足は、彼らの善意を犠牲にしながら、会社を弱くします。
 
 
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矢田祐二
矢田 祐二

経営実務コンサルタント
株式会社ワイズサービス・コンサルティング 代表取締役
 
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
 
数億事業を10億、20億事業に成長させた実績を多く持ち、 数億事業で成長が停滞した企業の経営者からは、進言の内容が明確である、行うことが論理的で無駄がないと高い評価を得ている。
 
 

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