No.583:大手の管理者研修で会社は崩壊する!?──その会社に欠けている「前提」とは何か
「先生、うちは管理者が育たないのです。」
建材商社N社の社長が、そう言われました。
売上は順調に伸び、社員数も増えてきました。しかし、現場を任せられる人材が出てきません。
「研修にも行かせています。なのに変わらないのです。それどころか、むしろおかしくなってしまって。」
私は、お聞きしました。
「ちなみにどんな研修に行かせたのですか」
N社長は答えました。
「〇〇会社です。大手だから間違いはないと思い…」
管理者が育たない理由は「能力」ではない
多くの社長は、こう考えています。
「本人の資質が足りないのではないか」
「もっと教育すれば変わるのではないか」
しかし、これは違います。
管理者が育たない理由は、個人の問題ではありません。
問題は「前提」にあります。その理由は大きくは二つ。
「イメージが無い」「ルーチンが無い」
この二つに尽きます。
「イメージが無い」とはどういうことか
管理者とは何をする人なのか。どのように判断し、どのように動くのか。
これが、社内に存在していないのです。
大手企業では、どの社員も入社すると、自分の上に管理者が存在します。その振る舞いを日常的に見ることで、自然とイメージが形成されていきます。
一方で、中小企業はどうか。そもそも「管理者」が居ないのです。
いたとしても、それは現場のプレイヤーの延長で、真似してほしくないのです。
そして何より、社長自身も、管理者のイメージを持っていません。
その状態で「管理者になれ」と言われても、なれるはずがありません。
人は、イメージできないものにはなれないし、行動できないのです。
その結果、「現場ができる人」や「長く働いている人」が管理者になり、そして機能しなくなるのです。
「ルーチンが無い」会社では、絶対に育たない
もう一つの理由が、ルーチンの不在です。
大手企業には、必ずルーチンワークがあります。
管理者としての行動が、日次・週次・月次で定義されています。
日報の確認、部下との面談、数値のチェック、改善の指示。
これらが、当たり前のように組み込まれています。
一方で中小企業では、それがありません。個々でやっているケースはあっても、会社としては決まっていないのです。
そのため、管理者になると、その「空白地」に放り込まれることになります。
これで、管理者が育つことはありません。そこには再現性がないのです。
再現性が無い会社に、育成は存在しないのです。
管理者研修の何が悪いのか
ここで、多くの社長が悩みます。
「では、管理者研修は意味がないのか?」
答えは、NOです。研修は悪くありません。
むしろ、「イメージづくり」としては有効です。
しかし、問題はここです。
そのイメージが、自社に合っているかどうか。
ここを外した瞬間、組織は崩れ始めます。
大手の管理者研修後に起きやすいこと
冒頭のN社長は、「大手の管理者研修」を選んでいました。
その結果、次のような変化が起きていました。
・「自分は管理者だから現場に出ない」と言い出す
・部下に「結果だけ」を求め、「泥臭い」フォローをしない
・「その指示はトップダウンすぎませんか」と組織のマネジメント論を振りかざす
・「うちは方針が曖昧ですよね」と社長のやり方を批評し始める
そして、若い管理者候補の一名は、「社長は間違っている」と言って会社を去っていきました。
これは特別な話ではありません。
むしろ、多くの会社で起きている現象です。
なぜか。間違ったイメージを入れてしまったことにあります。
それも、ルーチンという構造が無いうちにです。
問題の本質は「研修」ではない
問題の本質は「研修」ではないのです。
大手の研修が悪いのではないのです。
あくまでも、自社の管理者像が定義されていないことにあります。
また、管理者のルーチンな業務が存在しないことにあります。
悪いとしたら、その大手の管理者研修の「イメージ」が、自社に合っているかどうかを確認しなかったことにあります。
いずれにせよ、この二つが無い状態で、外部の「正しそうな理論」を入れると、必ず管理者も現場も混乱することになります。
間違っても、先に「研修」を考えてはいけません。
会社としてのイメージを定義する。そして、ルーチンを設計する、のです。
それから「研修」です。
人を変えようとするな、仕組みに向かえ
管理者が育たないとき、多くの社長は「人」に向かいます。
しかし、それでは何も変わらないのです。
たまたま、その人が育ったとしても、次の人で上手くいくとは限りません。
自社の中に、管理者を動かすという再現性が無いのです。
本当に欲しいのは、管理者ではないのです。
管理者を量産するという再現性、すなわち、仕組みなのです。
管理者だけでなく、人は「育てるもの」ではなく「育つもの」のです。
仕組みという環境のなかで、育つ存在なのです。
逆を言えば、仕組みがなければ、誰も育たないのです。
御社は、人材不足なのではないのです。
仕組みが無いのです。
だから、育たないし、辞めていくのです。
この現実から目を背けず、「管理者が育つ会社」をつくっていきましょう。
積み上げていきましょう。
そこから組織は変わり始めます。
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矢田 祐二
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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