No.597:年商1億円の事業を10個、馬鹿げている
K社は、工業系の商社であり、メーカーです。
この日も、テーマは事業の絞り込みです。
「先生、こんな良い商品が見つかったのですが」
K社長は、非常にアイデアマンです。次から次へと、やりたいことが出てきます。
私は一通りお聞きして、お尋ねしました。
「それ、年商いくらぐらいの規模にしますか?」
K社長も、毎回のこの私の回答にうんざりという表情をつくります。
社長には、やりたいことが沢山ある
世の社長は、やりたいことを沢山持っています。
そして、そのアイディアは、突然降ってきます。
展示会に行っている時に、そして、顧客と話している時に、それはやってきます。
それ自体は悪いことではありません。むしろ、素晴らしいことです。
経営の中で、「事業モデル」ほど重要なものはありません。
しかし、問題は別のところで起きます。
それは、それらをすべて会社に持ち込んでしまうことです。
「これは売れるだろう」「これも面白い」「これも将来性がある」「これも顧客に提案できる」、そうして、すべてに手を出してしまうのです。
その結果、会社の中はどんどん複雑になります
複雑化。
これが、経営において最もまずい状態の一つです。
ひとつの事業に、ひとつの組織
原則は、こうです。
いち事業、いち組織。
一つの事業には、一つの組織です。
事業が一つ増えれば、その分、業務が増えることになります。
そして、仕組みが必要になります。そして、本来なら、人も必要になります。
その一つの組織が、一つの事業に集中するから、その事業は伸びるのです。また、スピードある改善を繰り返すことができます。
つまり、事業を増やすということは、単に「売る物を増やす」という話ではありません。それだけ、「業務が増える」ということです。
当たり前です。しかし、これを本当の意味で分かっていない社長が多くいます。
口では「分かっています」と言います。しかし、実際には絞れないのです。
それどころか、簡単に始めてしまうのです。
そのわずかな利益のために、時間を失っている
その結果、どの事業も中途半端な状態になります。
どの事業も利益は出ている。しかし、それほど伸びているわけではない。
売上もある。しかし、どれも突き抜けていないのです。
そして、その分、社員は忙しくなっています。
そのわずかな売上、わずかな利益のために、我々が最も欲しく、最も価値のあるものが、犠牲になっています。
それは、時間です。
複雑化によって、一番犠牲になるのは時間なのです。
我々の一日は、24時間です。一年は、365日です。
その24時間、365日を何に向かわせるかです。
これこそが経営です。
一つの事業であれば、すべてをその一つに向かわせることができます。
三つの事業であれば、一つの事業には、8時間と121日になります。
社長の時間が割かれることになるのです。社員の時間も割かれます。
会議も割かれます。改善のテーマも割かれます。
趣味レベルならいい。本気で勝ちたいなら絞れ
人の人生においても、一つのことを極めることは難しいものです。
サッカーもできて、ゴルフもできて、マラソンもできる、そして、囲碁までできる。
それが趣味程度ならよいのです。
しかし、その世界で勝とうと思えば話は別です。そこにはライバルがいます。
その一つに人生をかけている人たちがいます。その人たちに勝たなければならないのです
事業も同じです。
競合は、一つの事業に集中しています。また、自社より大きな会社は、新規事業のネタを虎視眈々と探っています。
そこで生き残り、勝っていくために必要なことは、絞ることです。
いえ、絞ることが、勝つための『最低条件』なのです。
絞らない段階で、負け確定なのです。数年はよいかもしれません。しかし5年後には負けています。10年後には、何も残っていないのです。
「1億円の事業を10個」は、完全に間違い
昔、あるコンサルタントがこう指導していました。それも大手コンサルティング会社です。
「1億円の事業を10個つくれば、10億円になる」
まったくの間違いです。
10個分だけ複雑化します。そして、集中力は分散します。その分、スピードが遅くなります。
こんな反論が返ってきそうです。「手間はそれほどかかっていません」、「その業務は外注に任せています」、「ほぼ自動化できています」。
仮に手間がゼロだったとします。
それでも、社長の意識は分散しています。少ないといえども、それについて考えています。確認し、判断し、業者に指示は出さなければならないのです。月に数時間はとられています。
それ以上に、そんな小銭を得るためにやるな、ということです。
数年後に、残すかどうかも決まっていない、大きくする気もない、そんな事業をやるなです。
見た目は10億。中身は数億の集合体
1億円の事業を10個持つ会社と、一つの事業で10億円をつくる会社では、意味がまったく違います。
1億円の事業。3億円の事業。2億円の事業。また別に2億円の事業。さらに1億円の事業。それらを足せば、確かに売上は大きく見えます。しかし、結局は、どの事業も壁を超えていないのです。
見た目は年商10億です。しかし、中身は年商数億円の会社の集合体です。
どれも中途半端で、どれもが強くないし、伸ばし切れていない事業なのです。
そして、それが、社長の能力なのです。
見た目は年商10億の社長でも、中身は年商数億の社長なのです。
抜けていないのは、事業ではありません。社長なのです。
成功のために必要なのは順番である
大事なことは、順番です。優先順位づけです。
同時に三つも四つも事業を走らせるのではありません。
まず、一つの事業を走らせるのです。そして、その一つの事業を大きくするのです。
そして、その事業に専属の人を付けていきます。営業を量産します。仕組みを改善します。そして、その市場シェアを取りに行きます。
その後で、次の事業に取りかかります。
そして、その事業も、「そこそこ大きくする」事業ではありません。年商数億の事業ではありません。
次の会社の核となる事業です。その事業単体で、年商10億円以上を狙える事業です。
頭のいい社長ほど、絞らなければならない
やりたいことがたくさんある社長とは、例外なく、頭のいい社長です。
そして、実行力もあり、器用にできてしまうのです。
だからこそ、絞ってください。
自分の人生を何に使うのかを。
そうでなければ、中途半端な人生になります。中途半端な成功になります。
何をやるのか。何をやらないのか。
いえ
何を先にやるのか。何を後回しにするのか。
決めてください。
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矢田 祐二
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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