No.599規模に合わせて、社長のスタイルを変えよ

№599:規模に合わせて、社長のスタイルを変えよ

美容業を経営するT社長が、席に着くなり、嬉しそうに言われました。
「先生、社員が話すようになりました。」
 
先月、私はT社長に一つの宿題を出していました。
それは、「社員を巻き込むこと」です。この規模の社長の多くが、これを苦手としています。
 
T社長は、目を細めながら言いました。
「一人の社員からは、『一生、社長に付いていきます』と言われちゃいました。」
 
どうやらT社長は、この1か月で、とんでもないスキルを獲得したようです。

社員が話さない根本の理由


以前のT社では、会議を開いても、社員からの意見はほとんど出ませんでした。
社長が質問をしても、返ってくるのは短い返事ばかりです。
「どう思う?」「いいと思います。」
「何か問題はある?」「特にありません。」
 
そして、結局、最後はいつもT社長が話をします。
現状を説明し、問題点を指摘し、今後の方針を伝える。そして、彼らはそれを聞き、決められたことを実行します。
 
T社長は、こんな社員に対して不満を持っていました。
「もっと自分の意見を持ってほしい。」「もっと店のことを考えてほしい。」「店長なのだから、自分で判断してほしい。」
 
しかし、社員が話さなかった本当の理由は、皆さんにも容易に想像がつくことでしょう。そう、社員の意識の低さではありません、社長が、すべて話していたのです。

会社を伸ばしたやり方が、会社の成長を止める


T社長は、頭の回転も速く、行動力もある経営者です。
創業当初から、自分で考え、自分で決め、自分で動いてきました。
 
どのような店にするのか。どのようなサービスを提供するのか。誰を採用するのか、など。そのすべてを自分で決めてきました。
 
そして、その判断の多くは正しかったのです。だからこそ、会社は成長しました。売上も増え、社員も増えました。
 
いままでの小規模の会社では、「社長が自分で決め、自分で動く」、これが正しいのです。
社員に相談している時間はありません。十分な経験を持つ社員もいません。社長自身が先頭に立ち、決断し、行動しなければ会社は前に進みません。
 
T社長は、そのやり方で成功してきたのです。
 
しかし、会社の規模は変わりました。
正確に言えば、これから会社の規模を変える必要があるのです。
 
そのためには、いままでの社長のスタイルを、がらりと変える必要があります。
そうでなければ、自分自身が、会社の成長を止める最大の原因になりかねません。

会社の規模が変われば、経営のやり方も変わる


小さい会社では、社長が正解を出せば会社は動きます。
しかし、規模が大きくなると、社長一人が正解を出し続ける経営には限界が来ます。
 
社長がすべての店舗を見て、すべてのスタッフの状況を把握し、すべての問題に答えを出すことはできません。
 
店舗が一つであれば、社長が直接見ることができます。当然ですが、三店舗、五店舗と増えれば、徐々に見えなくなります。
さらに店舗が増えれば、社長が知らないところで問題が起き、知らないところでお客様が不満を持ち、その社員が悩むようになります。
 
その時に必要になるのが、店長や社員が自分たちで考え、話し合い、問題を解決する組織です。
 
これらの社長の役割は、「自分で答えを出すこと」から、「社員が答えを出せる状態をつくること」へ変わるのです。
 
そういう状態をつくるために、『社長の在り方』を変える必要があるのです。
社長は、「社員を活躍させるプロ」になる必要があるのです。
 
あなたのもとに入れば、一定の能力がある社員なら成果を出せる。
あなたの会社に入れば、社員が仕事を良くするための議論に参加するようになる。
 
そういう状態をつくり出せる、これが次の規模を目指す社長の仕事であり、目標なのです
 
その宿題をT社長には出させていただきました。
「T社長、この習得が来月までの課題です。社員の巻き込みを、やってみてください。」

当事者意識は、参加して初めて生まれる


コンサルティングでは、人の巻き込み方の提言もします。
社員のレベルの問題もあります。また、その社長の個性やコミュニケーション能力もあります。
 
しかし、そこは人、やはりそこには原則があります。そして、それはスキルとして習得が可能であり、再現性があるのです。
年商数億規模から年商十億に進むためには、それを獲得する必要があります。
 
例えば、経営計画書を社長だけで完成させるのではなく、素案の段階で社員に意見を求める。
接客マニュアルを社長がつくって渡すのではなく、店長に素案をつくってもらい、全員で意見交換をする。
予約の取り方やシフトの組み方についても、現場の社員に考えてもらう。
 
こうすることで、管理者や社員の気持ちを高めることができます。
そして、その自分たちで話し合って決めたことに、初めて当事者意識が生まれるのです。その後の実行力、改善意欲も高まります。
 
いいですか、もう一度言います。
自分達が参加して、初めて当事者意識が生まれるのです。
 
社長が一方的に決めたことを伝え、「もっと当事者意識を持て」と言っても、絶対に社員に当事者意識は生まれません。
 
人の心は、自分の口を開かない限り、何も動かないのです。
自分の脳みそで考えない限り、主体性は生まれないのです。

巻き込む経営は、簡単ではない


もちろん、社員を巻き込むことは簡単ではありません。社長が意見を求めても、最初から活発な意見が出るわけではありません。これまで、自分の考えを言う必要がなかったからです。
また、社員も戸惑います。「社長がまたなんかやり始めた」と(笑)
 
「社長が考える人で、自分たちは動く人」そう思い込んでいる社員もいます。なかには、「自分たちは意見を言ってはいけない」と考えている社員さえいます。
 
社員参加型の会議やプロジェクトを始めても、多くの会社が導入段階で失敗します。社員が意見を出さないため、社長がしびれを切らして、結局すべて答えてしまうのです。
 
また、外部のコンサルタントが正論を一方的に押し付け、組織を混乱させるケースもあります。
 
どれだけ正しいことであっても、押し付けるだけでは、人は動きません。相手が受け取れる状態をつくる必要があります。そのための巻き込みです。
 
「私はコミュニケーションが苦手です。」
「社員の話を聞くのは得意ではありません。」
そう言う社長もいます。しかし、それは、やらなくてもよい理由にはなりません。
 
営業担当者が、「私は人と話すことが苦手なので、営業はできません」と言ったら、それを認めるでしょうか。営業という役割を担う以上、必要なスキルを身につけてもらうはずです。
 
社長も同じです。会社を次の規模に進めるのであれば、人を巻き込む力を身につける必要があります。できなければ、会社はそこで止まります。

社長が黙るから、社員が話し始める


T社長は、まず自分で素案をつくり、それを社員に見せました。
そして、「これについて、皆の意見を聞かせてほしい」と伝えました。
社員は、最初は戸惑いました。これまで意見を求められることがなかったからです。
 
T社長は、この時、いくつかの私のアドバイスを実行しました。
すぐに答えを言わない。社員の発言を途中で否定しない。意見が出るまで待つ。
発言した社員に、さらに質問をする。一人の意見を、全員の議論につなげる。
それに社員が応え始めました。
 
それ以降、会社の雰囲気は一転しました。
 
定例ミーティングでは、予約の取り方、シフトの組み方、接客の進め方などについてマニュアルをつくり、社員同士で意見交換をするようになりました。
 
もちろん、T社長は途中で何度も口を挟みたくなりました。自分の考えとは違う意見も出ます。すぐに修正したくなる発言もあります。しかし、そこでしっかり我慢しました。自分が正解を言うことよりも、社員が考え、話すことを優先したのです。
 
そして、その1か月後に、T社長の口から出た言葉が冒頭のものです。
「先生、社員が話すようになりました。」
 
社員が変わりました。
しかし、そのきっかけを仕掛けたのは、T社長です。
 
T社長の行いが、会社を変えたのです。
それも、わずか1か月です。
 
会社はすぐに変えられるということです。
社長には、その力があるということです。

会社の成長に、社長自身が追いつけ


会社を成長させるためには、事業モデルや仕組み、組織を変える必要があります。
しかし、それだけでは足りません。社長自身も変わらなければならないのです。
 
それ以上に、組織を変えたいのであれば、社長が先に変わらなければならないのです。
次の規模に進みたいのであれば、社長自身が、次の規模にふさわしい経営者になる必要があります。
 
規模に合わせて、社長のスタイルを変えよ。
それにより、この世のすべてを変えるのです。
 
 
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矢田祐二
矢田 祐二

経営実務コンサルタント
株式会社ワイズサービス・コンサルティング 代表取締役
 
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
 
数億事業を10億、20億事業に成長させた実績を多く持ち、 数億事業で成長が停滞した企業の経営者からは、進言の内容が明確である、行うことが論理的で無駄がないと高い評価を得ている。
 
 

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