No.608:顧客を絞れば、経営は変わる。「誰でも来てください」が仕組みを崩壊させる
健康に関する店舗を展開するW社。コンサルティング開始から4か月目のことです。
W社長が言われました。
「先生、すごいことに気づきました」
私は、この時のW社長の目が大好きです。
「なんですか?」
「実は、うちには二つの顧客がいたのです。
片方の成約率は3割、もう一方は9割です。」
二つの顧客の正体は?
W社は、施術と運動を組み合わせ、健康的な美しさを実現する一つの店舗パッケージを展開していました。
しかし、そこには目的の異なるお客様が来ていたのです。
一つは、施術を軸に求めるお客様。
もう一つは、運動を軸に求めるお客様です。
前者は、エステのように、人の手によって身体を整え、癒やしてもらうことを期待しています。初回来店時には、まだ通い続けるかを決めていません。
一方、後者は、自分で身体を動かし、健康的に変わることを期待しています。そのために、継続して通うことを前提に持っています。
同じパッケージを案内しているのに、成約率は3割と9割。
この差は、スタッフの営業力ではありません。来店する時点でのお客様の目的と意思が違っているのです。
「健康に関心のある人」では括れない
顧客を絞るというと、年齢や性別、地域を決めることだと考える社長がいます。
「近隣に住む、健康に関心のある中高年女性」
確かに、これも顧客の絞り込みです。
しかし、この条件の中にも、求めているものが違う人が存在します。
今のつらさを和らげたい人。定期的に身体の手入れをしたい人。運動を習慣にして、身体を変えたい人。
属性が同じでも、サービスを買う理由が違うということです。
・自分でやること、継続することを前提に来る人
・人にやってもらう、次回以降もくるかどうかわからない人
この二つでは、伝える内容も、契約までの労力も違います。
どちらがよいかなどありません。大事なのは、どちらを『顧客』と定義するかです。
顧客は、「どんな人か」だけでなく、「何を実現したくて来る人か」まで絞る必要があります。
顧客の種類を増やすほど、社内は複雑になる
社長は、売上げを増やしたいと考えます。
そのため、できるだけ多くのお客様を受け入れようとします。
「こういうお客様にも対応しよう」
「この要望に応えるメニューもつくろう」
一つひとつは、お客様のための判断です。
しかし、その積み重ねで、メニューや料金、説明の仕方、例外対応が増えていきます。
売上げを増やすつもりが、仕事の種類を増やしているのです。
その結果、経験のあるスタッフでなければ対応できなくなります。また、新人の習得には時間がかかり、判断に迷うたびに社長や店長が呼ばれることになります。
いつもお伝えしていることですが、ここで「社員の能力が足りない」「もっと教育しなければ」と考えてはいけません。
先に確認すべきは、多くの種類の顧客を集めていないか、ということです。
顧客の要望に合わせて、その都度やり方を変える。それでは、標準の手順を決めても守れません。それ以上に決められなくなります。それは、仕組化が進まない最大の要因になります。
絞ることで、集客から育成までがつながる
顧客を絞ると、広告で伝えることが明確になります。
「施術と運動で、総合的な美しさを」から、
「運動を習慣にして、健康的に引き締まった身体へ」へ。
施術を受けたい人と、運動を続けたい人の両方に呼びかけるのをやめるのです。
来店するお客様の目的が揃えば、契約時の説明も明確になります。提供するサービスの内容や継続の支援も、その目的に合わせて整えられます。
スタッフが覚えるべきことが定まり、訓練プログラムもつくりやすくなります。
それ以上に、雇用するスタッフが整います。施術系と運動系はまったく違うのです。
顧客を絞る効果は、集客、契約、サービス提供、スタッフの育成まで、一貫した仕組みにできることにあります。
もちろん、施術系にも、それに合った顧客と事業のつくり方があります。
運動系のほうが、優れているという話ではありません。
問題は、目的が違うお客様を、一つの売り方、一つの運営で扱おうとすることです。
強い会社は、増やす顧客を決めている
自社のお客様を、整理してみてください。多くの会社は、自社の顧客を定義できていません。
何を求めて来ているのか。
どの顧客なら、自社の標準サービスで十分に満足してもらえるのか。
そして、どの顧客を増やせば、利益と生産性を高められるのか。
目の前の要望に応えることと、会社としてその顧客を増やすことは、まったく別の判断です。
弱い会社ほど、いろいろな要望に応えます。
その結果、業務が複雑になり、生産性が落ち、自社の強みへの自信も失っていきます。
強い会社は、誰に何を提供するかを決めています。その顧客に選ばれるために、サービスと仕組みを磨き続けます。強みがさらに強くなるのです。
「絞ると、お客様が減るのではないか」
その怖さは分かります。しかし、乗り切るしかありません。
絞ることで起きるのは、恐れていたこととは逆の現象です。
顧客を絞るほど、お客様は増えていきます。
他を断るほど、自社のサービスと仕組みは磨かれていきます。
顧客の対象を広げたとしても、お客様が増えることはありません。
その先に待つのは迎合、混乱、そして、存在意義の喪失です。
会社を大きくしたい、社員を活躍させたいのであれば、まず「誰でも来てください」をやめることです。
「こういう人は来てください」と絞ることです。
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矢田 祐二
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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