No.543:売上低下の原因は「商品」ではない──ズレたのは“顧客像”だった

「最近、売上が鈍ってきていて……」
スクール事業を展開しているM社長は、初回のコンサルティングの場でそう言われました。かつては高い成約率とリピート率を誇っていましたが、最近では明らかに、その数字が落ちているとのこと。
そこで私は尋ねました。
「顧客はどのような人ですか?その方は、どんな悩みや欲を持っているのでしょうか?」
M社長は、迷うことなく答えました。
「40代の女性です。彼女たちは・・・。」
その説明を聴きながら、思考を巡らせていました。
私は、そこにズレを感じたからです。
「誰に向けているか」が、すべての起点である
事業とは、次の4つで構成されます。
1.誰の(顧客)
2.どんな課題や欲に対して(ニーズ)
3.どんなサービスで(商品・提供手段)
4.どんな価値を実現するか(成果・体験)
これがすべてのスタートになります。
そして、これに合わせ、すべてを構築していきます。
・見せ方を整える
・集客のやり方を選ぶ
・営業方法を工夫する
・サービスの提供方法を組み立てる
そして
・組織をそれに最適化させる。
ここで確認したいのは、「1.誰の(顧客)」が起点となっていることです。
この顧客像がズレれば、全てがズレていきます。
その結果、「今やっていることが、顧客に響かない」という状況が生まれるのです。
顧客は変化する。そしてこちらも変化する。
時代とともに、顧客の生活は変わります。
・ライフスタイルが変わる
・情報の取り方が変わる
・成果への期待値も変わっていく
それにもかかわらず、こちらが「昔のまま」でいれば、当然ミスマッチが起こります。「売上が落ちる」という現象は、「その変化についていけていない」という結果なのです。
そして実際には「顧客が変わった」のではなく、「こちらが変化してしまった」というケースも少なくありません。
企業側も「お客様のため」と思い、社内で話し合い、サービスを良くしていきます。
その過程で、いつの間にか「こちらが変わってしまっていた」のです。
M社が、まさにそうでした。
本来の顧客像を見失っていた
M社のスクールは、もともと「自己肯定感を満たしたい」「自分らしくありたい」と願う人たちに向けて設計されていました。
彼女たちにとっては「スクールに所属していること」自体が価値であり、変化は“ゆっくりでもいい”──その安心感が、M社のブランドそのものでした。
しかし、いつの間にか社内ではこんな会話が交わされていました。
「どうすれば成果を出してもらえるか?」
「もっと短期間で結果を感じてもらうには?」
マーケティングの方向性も、「ゆっくり変わっていこう」から「短期間で実績を出そう」へと、少しずつシフトしていたのです。
M社長はこう振り返りました。
「そんな彼女たちに、成果を出してもらおうとしていたのです。」
ズレは“善意のアドバイス”から始まる
このようなズレは、しばしば善意によって引き起こされます。
・社員は「目の前の顧客」に敏感で、その反応に大きく影響を受ける。
・コンサルタントは「プロセス改善」に寄りがち、顧客像の再確認を飛ばすことも。
・広告業者は「反応率重視」のため、ニーズの幅を拡げる提案をしがち。
いずれも悪意はありません。むしろ熱心で優秀な人たちです。
しかし、彼らのアドバイスは部分最適であり、全体構造──とりわけ「顧客像」からの逆算にはなっていないことが多いのです。
だからこそ、「誰に向けた事業なのか」を定義し発信を続けるのは、社長の責任なのです。
必要なのは「再定義」である
やるべきことはシンプルです。
・今一度、「誰のどんな課題に応えるのか?」を言語化すること。
・そして、社内に共有し、すべての基準とすること。
これは理念でもビジョンでもありません。
事業構造そのものの「再定義」です。
提言:「誰に売っているのか」を忘れない
売上が落ちたとき、多くの会社が「商品を変える」「集客方法を改善する」といった手を。しかし、その前に確認すべき問いがあります。
「そもそも、誰に向けてこの事業をやっているのか?」
顧客は、確実に変化しています。
その変化に追いついていないのは、こちらかもしれません。
あるいは、知らぬ間にこちらが変わってしまったのかもしれません。
だからこそ、社長がまず取り組むべきは「顧客像の再定義」です。
そこから、すべての構築が始まります。
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矢田 祐二

理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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