No.549:社員を変えるな、会社を変えよ──人視点で見る改革の2段階

「先生、社員が育たないのです。」
K社長は、眉間に皺を作り言いました。
この時の材料卸業K社は、年商3億、社員数15名の規模でした。
K社長は言葉を続けられます。
「何度言っても変わらない社員がいて‥。彼が変われば、会社は大きく変われる気がするのです。」
このようなことを先月も聞かされた覚えがあります。
私は強く伝えることにしました。
「その社員を“育てる”ことから、いったん離れてください。そうでなければ、一生会社が変わることはありません。」
改革は2段階で考える
多くの社長は「社員を変えよう」とします。これは、大きな間違いです。
我々に人を変えることは出来ません。
正確に表現しておきましょう。「我々に直接的に人を変えることはできません。」
人を変えるのも、人を育てるのも、あくまでも『環境』です。環境が彼らの態度を正し、環境が彼らの脳を動かすのです。
向かうべきは『環境』なのです。
人視点で見たとき、組織改革には2つの段階があります。
第一段階:解放の段階──仕組みで力を解き放つ
改革の第一歩は、「仕組み」によって環境を整え、“力を解き放つ”ことです。
多くの会社では、今いる社員が、本来の力を発揮できていないというのが実情です。
・毎回、社長の判断を仰がないと動けない
・課題に気づいても、発言や提案ができない
・責任を避けるような態度が、社内に蔓延している
こうした状態は、社員の資質や能力の問題ではありません。ほとんどは「そうさせてしまっている会社の空気」──つまり、仕組み不在の環境が原因です。
案件の流れが見えるようにする、業務の基準を明確にする、各部署や役職の役割を明確にする。そんな仕組みの整備をしていきます。
その結果、社員は動けるように、考えられるようになります。社長に判断を求める頻度が減り、逆に、「これをこう変えた方がよいのでは?」という前向きな意見や提案が増えてくるのです。
多くの社長はここで驚くことになります。「うちの社員は、こんなに考えていたのか」と。
そして、この時、素行の悪い社員は目立たなくなっていきます。その職場では、何が正で何が悪かが明確になります。自分の態度への指摘は「社長」ではなく、「同僚の目」になるのです。
組織変革の第一段階は、「仕組みによって環境」を整えることにあります。それは「解放」なのです。
この時に、「社員を育てる」方向に向かえば、いつまでも結果を得られないことになります。それどころか、「その社員が辞める」ことになります。
第二段階:入替の段階──抜擢と採用により人材レベルを上げる
「解放」の段階が終わると、次は「入替」の段階に移ることができます。
今いる社員の中で、「向上心があり、自頭がよい人材」が居る場合があります。それが「解放」により、力を発揮し出すのです。
それは通常、若手であったり、パート女性であったりもします。その人材を思い切って上げるのです。いきなり役職を与える必要はありません。事あるごとに意見を求め、企画書やマニュアルをまとめさせるのです。
我々のような力のない年商数億の会社にとって、「内部からの登用」こそが現実的であり、もっとも有効な選択肢です。
その一方で、今いる管理者が管理者で無かったことにも気づくことになります。彼らは「判断層」レベルです。それどころか、「まじめに作業をこなす、長く勤めてくれている社員」だったのです。
そして、いよいよ採用に取り掛かります。
今いる社員が変わったとしても、それはあくまでも「今までのレベル」です。次からは、一つ上のレベルの人材の採用を狙います。それにより入替を進めます。
そのために、ホームページや処遇を見直し、魅力ある会社に見えるようにします。仕組みを整備することで、彼らが入社後すぐに活躍できるようにします。
「採用」によって会社を飛躍させることができるのは、あくまでも「第一段階の解放」を終えている会社だけです。
終わっていない会社が「採用」に向かえば、大きな遠回りをすることになります。
・そもそも良い人材は来ることはない。優秀な人材に選ばれる会社でない。
・間違って採れたとしても、仕組みが無いので、その人材は活躍できない。
・活躍したとしても、その人材に仕事が集中することになる(更に属人化)。
その結果
・その社員は、数年後にはいない
これが仕組化できていない会社の典型的なパターンです。
K社の変革:和気あいあいと話しあう社風に
K社でも、まず取り組んだのは「解放」の仕組みづくりでした。週次会議を整備し、業務フローから「判断や指示がどこで発生するべきか」を明確にし、それに対し方針書やマニュアルを整備しました。また、社員としての態度や職場のルールもまとめました。
すると、驚くべきことが起きました。
それまで「おとなしく真面目だけど」と思っていた社員が、積極的に発言するようになっていたのです。また、一人のパート事務の女性が業務の改善を提案してくれるようになりました。
その一方で「今まで何度言っても変わらない社員」は会社を去ることになりました。この取組みにより、居づらくなったのでしょう。
組織改革に取り組み1年、いよいよ採用による入替に着手しました。狙った通り、今までとは違うレベルの人から応募があります。売上の拡大と合わせ、人材の採用を続けました。
2年経ったいま、年商は4億3千万、社員数21名、何かあるとすぐに関係者が集まり和気あいあいと話し合う、そんな社風になっています。
まとめ:2年後に改革は終わり・・
「この社員をどうにかしたい」、「この人さえ変わってくれれば」という考えこそが、自分の会社の成長を止めています。
変えるべきは社員ではありません。向かうべきは「環境」であり、それを構成する「仕組み」です。
・まずは仕組みを整え、現場を“解放”する。
・そのうえで、人材の「抜擢」と「入替」に取り組む。
この二段階を踏むことで、会社は確実に変わります。
今から取り掛かれば、2年後には完全に立派な会社になっています。
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矢田 祐二

理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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