No.551:マニュアルが使われない会社──ゴールは運用、そのための導入

「うちもマニュアルは作ったんですけど、全然使われていなくて…」
先日のセミナー終了後、システム開発業を営むD社長から、そんな相談を受けました。
社員教育がうまくいかず、現場ではミスが頻発しているとのこと。
そこで社長は一念発起し、マニュアルを自ら作成されたそうです。
しかし、いざ現場に配ってみても、誰も見ようとしない。まったく活用されていない──。
実はこれは、決して珍しいことではありません。
そのマニュアルの出来が良いほど「使われないマニュアル」になっていくのです。
なぜ使われないマニュアルが生まれるのか
マニュアルが現場で使われない理由は、主に三つあります。
1.社長(または一部の優秀な社員)が作ってしまう
その結果、社員にとってそのマニュアルが「自分ごと」になっていません。また、そのマニュアルは「上から降ってきた指示書」になります。上から降ってきた“指示書”に見えてしまうのです。
自分で作っていないから、理解も出来ていなければ、使う気も起きないのです。
2.文字が多すぎる
「読みにくい」と言われ、つい削ってしまいたくなるものですが、削ってはいけません。マニュアルとは、本来“ノウハウの集積”であり、会社としてのその業務のナレッジの最高峰です。情報が多くて当然であり、薄い冊子で済むわけがありません。
マニュアルとテキストは別物
ただし、誰かに教えるための資料として使うなら、別途テキストを用意すべきです。
マニュアルとテキストは、まったく別のものです。
マニュアル:業務の標準・ノウハウの共有。そのための「業務全体の網羅」と「深く細かい記述」
テキスト:教育・習得のサポート。そのための「要点整理」、「理解しやすい構成」
この違いを混同してはいけません。
3.マニュアルを日常的に使うものだと誤解している
マニュアルは、毎日開くものではありません。
以下のような“特定の場面”で使うのが基本です。
・新人に業務を教える
・業務のやり方を見返す
・改善のアイディアや課題を書き込む
つまり「使われない」のではなく、そもそも「使われるべき場面が設計されていない(間違っている)」だけなのです。
重点:マニュアルは完成度よりも“運用”が大事
当然ですが、マニュアルを作るだけでは意味がありません。
むしろ、本当の勝負はその後にあります。使われなければ、どれだけ立派でもそれは“仕組みではない”のです。
そのため、当社のコンサルティングでは、次の2点に注力します。
1.導入プロセスの設計
社長が一人で作ってはいけません。いかに現場を巻き込み、作成プロセスに参画させるか。「自分たちのやり方を、自分たちで言語化する」──
だからこそ参画意識も芽生え、その後の「そのやり方の定着」から「マニュアルの活用」に繋がってくるのです。
2.運用の仕組みづくり
どの場面でマニュアルが使われるか、それをしっかり設計します。
そのマニュアルは大きくは以下のシーンで活用されることになります。
・PDCAを回す、その中の業務改善の場。
・新人に教える、そのテキストとして。
・日常業務のなかでのアイディアや課題の集積(メモ)
マニュアルとは、「完成して配るもの」ではなく、「業務が常に進化するための土台」なのです。書いたら終わりではなく、使って育てることが前提なのです。
逆を言えば、マニュアルが無ければ、業務を改善したり、アイディアを集積したりは出来ないということです。
提言:ゴールを間違えるな
マニュアルの目的は、「業務の見える化」ではありません。
ましてや「現場にやらせるための指示書」でもありません。
本当の目的は、「自分たちで改善できるようにすること」にあるのです。
まとめ:マニュアルとは、“仕組みを育てる基盤”である
・社員が関わり、自分ごとになっていること
・活用する場面が設計されていること
・そのための仕組み(PDCA・業務改善・新人育成など)の仕組みが回っていること
この三つが揃ってこそ、マニュアルは“生きた道具”になります。
ゴールはその作成でも導入でもありません。
「運用されている状態」こそが、マニュアルという仕組みの完成形なのです。
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矢田 祐二

理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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