No.564:「決まっていますか」──曖昧な方針が現場を迷わせる

№564:「決まっていますか」──曖昧な方針が現場を迷わせる

特殊部品加工業のM社長と製造部長が来られました。
私は、以前からM社の方針書は「具体性がない」と指摘していました。
今回は「来期の方針書ができたので見てほしい」とのご相談です。
 
ページを開くと、そこにはこう書かれています。
『設備を止めないように整備・点検を徹底する』
 
私は、その一文だけを取り上げて確認することにしました。
「製造部長、徹底するとは何を徹底するのですか?」
「・・・それですね・・」
 
「整備や点検のタイミングは決まっていますか?」
「・・・」

問題が起きた時に確認すべきことは「決まっているか」


現場で問題が起きたとき、最初に確認すべきは一つです。
「それは、決まっていますか?」
 
多くの会社では、問題の議論がいきなり「やっているのか、やっていないのか」へと飛びます。これは人に向かっていることを意味します。
 
そこにいきなり行ってはいけません。
まず確認すべきは「それは、決まっていますか?」です。
 
冒頭のM社でいえば、たとえば次のようなことです。
・年・月・週・日の整備のスケジュールは決まっているか
・その際に点検すべき項目やその手順は決まっているか
 
これが決まっていないのに、「やっていない」は存在しないのです
決まっていないものは、実行できず、責めることもできないのです。
 
まずは「決めること」。そこからすべてが始まります。

「強化する」「徹底する」は、何も決まっていない


目標設定が苦手な会社ほど、方針書に次のような言葉が並びます。
「強化する」、「徹底する」、「推進する」
 
一見、意欲的に見えますが、実は何も“決まっていない”のと同じです。
「何を強化するのか」
「どの水準まで行うのか」
「誰が、いつまでに、どのように」
 
これが書かれていなければ、それは方針ではなくスローガンです。
スローガンでは人は動けません。
「強化」、「徹底」、「推進」では、自分が何をすればいいのか全くイメージできないのです。
 
その結果、管理者は動けず、現場は何も変わらない。そして、社長から責められた時には、「すみません、頑張ります」と答えることになります。

方針を「目で見える行動」にまで分解せよ


曖昧な表現は、行動レベルまで分解することで初めて意味を持ちます。
行動レベルとは、「目で見える」状態のことです。
 
たとえば先ほどの一文なら、次のように分解できます。
 
・点検の種類:日常点検/週次点検/月次整備
・担当者:オペレーターが一次点検、整備担当が月次
・基準:稼働時間100時間ごとに必須
・管理方法:チェックシート記入+日報提出
 
ここまで落とし込んで初めて、「徹底する」が“決まったこと”になります。
ここまで決めて、初めてそれは方針になり、やっとスタートを切ることができるのです。

問題解決は、三段階で考える


問題が起きたときは、次の順番で考えることになります。
1.決まっているか、決まっていないか
 
決まっているのであれば、次に進むことができます。
2.その決まっていることを、やっているのか、やっていないのか
 
やっている、でも問題が起きているのであれば次です。
3.そのやり方は、合っているか、合っていないか。
 
ほとんどの問題は、1の段階で止まります。決まっていないのです。
「社員がやっていない」ときは、「決まっていない」ことがほとんどです。
 
決まっていると言っても、文章になっていないことが多いのです。
このコラムで何度もお伝えしている通り、口頭で言っているだけでは、それは「決まっていない」のです。

提言:決めることが経営である


経営とは、「決める」ことです。
・自社は何をする会社か。
・うちの事業はどうあるべきか。
・今後どのように成長していくのか。
その決めたことをまとめたモノが経営計画書です。
 
そして、そこから部署ごとの方針に展開します。
たとえば、
「製造部は何を達成するのか」
「どのような仕組みをつくるのか」
これが方針になります。その方針に期限がつくと目標になります。
 
組織とは、“変える機能”です。顧客満足や生産性の向上のために、いまのやり方を再定義することです。
仕組みとは、“定義すること”です。つまり「決めること」なのです。

まとめ:会社は驚くほど速く変わる


社内で使う言葉を、変えることです。
「強化する」、「徹底する」、「推進する」、この言葉を使っている限り、仕組化も組織化も進みません。
 
それらを具体的にすることです。具体的になるまで質問をすることです。
「それは決まっているのか?」
決まっていないのであれば「何をつくる?マニュアル?管理表?」と詰めます。
 
社長がそれを管理者に問いかけるのです。
すると、管理者もそれに倣い部下に問うようになります。
その結果、会社全体の“発想”が変わるのです。
 
会社で使う言葉を変えることで、会社は、驚くほど速く変わることになります。
 
 
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矢田祐二
矢田 祐二

経営実務コンサルタント
株式会社ワイズサービス・コンサルティング 代表取締役
 
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
 
数億事業を10億、20億事業に成長させた実績を多く持ち、 数億事業で成長が停滞した企業の経営者からは、進言の内容が明確である、行うことが論理的で無駄がないと高い評価を得ている。
 
 

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