No.563:文字で群れを統制する

№563:文字で群れを統制する

資源リサイクル業K社長は、手帳を置きました。
「先生、運転手向けのハンドブックができました。」
 
私は手に取って拝見します。
そこには、「出社時には元気に挨拶をすること」という態度の基本から、運転時の注意事項、事故が起きた際の対応まで、細かく書かれています。
 
K社長は少し照れたように言いました。
「当たり前のことばかり書いています。」
 
私は答えました。
「はい、そうですね。」

群れを動かすのは「文章」である


文章によって、人を動かすことができます。
人は文章で伝えられたものを、「正しいもの」「従うべきもの」と受け取ってしまう生き物です。そのため、自分がどうしても受け入れられない文章に対しては、読まない、目に入れない、という行動を取ります。それほどに、文章の力は強いのです。
その威力は「口」で伝えられるよりも、数倍も強いのです。
 
そして、その文章を「他の構成員も読んでいる」となると猶更です。人は「社会性を重んじる生き物」です。自分一人では生きていけません。そのため「みんなが読んでいる」という事実が、強く心に影響するのです。(その文章が正しいかどうかは関係なく)
 
この特性があるため、組織を束ねるために「文章」を使うのです。
そして、全員で読み合わせをします。その読み合わせを繰り返すのです。
 
私はこれを、強調のため敢えて「群れの統制」と呼んでいます。
誰か個人に向けてではなく、構成員全体を統制するのです。

数か月で社内が整い始める


この説明をすると、最初、多くの社長は、「ふーん」という素っ気ない反応をします。
矢田がしつこく言うから、渋々書くという社長も少なくありません。
 
そして、実際に作り、社内で共有してみると、すぐに反応が起きます。
社内が整い始めるのです。社員の間違った行動が減り、イライラすることも減ってきます。そして、数か月もすると“問題社員”がおとなしくなっています。あれほど気になっていた社員の素行も、気にならなくなっているのです。
 
そのとき、社長の口から出る言葉は決まっています。
「不思議ですね…」
そう、この不思議な感覚は、やってみた者にしかわからないのです。確かに、そうなってしまうのです。

そして上司が機能し始める


やがて、上下関係ができ始め、上司が部下を指導するようになります。時間が経つと、先輩が後輩を指導するようにもなります。
「その態度は直してね」、「こういう時は報告がほしい」と。
 
この時、“文章”が上司や先輩の“後ろ盾”になっているのです。“全員で確認している”という事実があるから、注意ができるのです。
 
これがなければ注意できません。年商数億円の規模の企業では、上司と部下といっても、実力や経験値に大きな差があるわけではありません。部下の素行や間違いを見ても、自信をもって注意ができないのです。その結果、“なかよしこよし”の関係になり、社長だけが“こまごましたことを注意する”状態になるのです。
 
上司や先輩は、文章があることで自信を持って指導できるようになります。また、「自分がこの項目を守らせなければ」というプレシャーにもなるのです。
その結果、上司が機能し始め、社長は徐々に現場を離れられるようになります。

社長の文章を使う技術


会社を統制するとは、間違っても人を支配することではありません。秩序を生み、目的に向かって全員の方向をそろえることです。また、彼らの力を発揮させることでもあります。
その最も原始的で、そして普遍的な手段こそ「文章」なのです。
 
人は言葉に従い、文字によって動くのです。それにより人類は進歩し、社会を築いてきたのです。
社長は「文章の使い方」を学び、使わない手はありません。むしろ、絶対に覚えなければならない技術なのです。

提言:まずは思っていることを書いてみる


まずは社員に“してほしいこと”、“守ってほしいこと”を書きまくってください。
それらを、方針書、マニュアル、業務基準書に割り振っていきます。その割振りが正しいかどうかは気にする必要はありません。大切なのは、“文章”があることです。
 
その社長が生み出した文章こそが、「群れの統制」の基盤となります。それが組織化の始まりとなるのです。
 
そこに並んだ内容は、全て「当たり前」のことばかりでしょう。
しかし、それこそが大事なのです。素行の悪い人、自分で判断できない人、そして、上司や先輩と、それを必要とする人がいるのです。
それを必要とするのが『組織』なのです。
 
まずは書いてみてください。
この先に、“本当に組織が変わる”という不思議な体験が待っています。
 
 
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矢田祐二
矢田 祐二

経営実務コンサルタント
株式会社ワイズサービス・コンサルティング 代表取締役
 
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
 
数億事業を10億、20億事業に成長させた実績を多く持ち、 数億事業で成長が停滞した企業の経営者からは、進言の内容が明確である、行うことが論理的で無駄がないと高い評価を得ている。
 
 

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