No.568:社長は「神」である──トップは創る、ナンバー2は造る
設備業M社長、社長になって一年。
「色々ありましたよ。でも……ようやく先月、黒字になりました。」
M社長がそう言って深く息をつかれました。
長く続いた赤字が止まり、初めて黒字に転じた瞬間です。
そして、静かに言葉を続けられました。
「この立場になってみないとわからないものですね。……トップとナンバー2って、こんなに違うとは。」
まず“イメージ”をつくること
社長が何かを行う時に、最初に取り組むべきことは、その“イメージを”つくることです。
この世はイメージに引っ張られます。イメージだけが現実になっていきます。
それは、個人においても、組織においても同じなのです。
社長のイメージが出来ているものが、会社で形になっていきます。
そこには、そのイメージの成否は関係ありません。
社長のイメージが出来ていないものは、いつまでも形になっていきません。
正しきイメージを持つ、そのために動く。
会社におけるすべては「社長自身がイメージを獲得する」ことから始まるのです。
管理者が育たない“本当の理由”
例えば管理者。
なぜ年商数億企業では管理者が育たないのか、なぜ管理者が機能しないのか。
答えは明白です。
「管理者とは何か」というイメージが会社にないからです。
年商数億の会社には、管理者がいません。
現場のすぐ上が社長です。だから、管理者像そのものが持てないのです。
仮に“管理者のような人”がいたとしても、それは正しい管理者像ではありません。彼らは「一番現場で頼りなる存在」であり、マネジメントも仕組みの改善も行っていないのです。若手はその姿を“管理者像”として倣っていってしまうのです。
一方、大手企業には管理者がいます。20代後半で主任になり、30代で課長に、40代で部長に、とその道も役目もすぐ見えるところにあります。
新人はその姿を間近で見て、「ああいう態度をするのか」「自分もいつかこうなるのか」と自然にイメージを獲得します。
そして、そのように成っていくのです。
組織は“一人のイメージ”から創られる
会社におけるどんなことも、一人のイメージがスタートになります。
その多くは社長です。社長の持っているイメージが会社では形になっていきます。
社長のイメージがないところや興味がないところは、他の誰かのものになっていきます。それは、中途採用者の持っていた前職のイメージか、その担当者が何かで獲得したものになります。
そうして会社が出来ていきます。
しかし、やはり会社の核は、社長がつくることになります。
会社は、たった一人の“イメージ”よってつくられることになります。
社長がどのようなイメージを持つのか。
そのイメージがそのまま事業をつくり、社員を動かし、文化を決めることになります。
・どのように事業を伸ばしていくのか
・どのようにサービスを改良していくのか
・当社における営業とはどのようなものか
・そして、管理者とはどのような働きをするものか
これらを、まず社長自身が鮮明に描くこと。
すべてはそこから始まります。
M社長の一年:“イメージを創る側”になるということ
冒頭のM社長は、社長になって初めてそれを理解しました。
いままでは、前社長がその「イメージを描く役割」を担っていました。それを実現するのが自分の役目でした。
いざその役を担うと、その重責と、その怖さが解ってきます。
自分の描くイメージで答えが決まるのです。自分の出す号令で幹部も社員も動くのです。
それも自分たちのいいように解釈して動いたり動かなかったりもします。
そして、自分のイメージの無いものに対しては、彼らは容赦なく「方針を示してください」と答えを求めてきます。
M社長のこの一年は、まさにそのイメージを獲得する一年でした。この間に、多くの問題が起きました。そして、世界情勢の影響もあり、就任後毎月の赤字です。
それでもそれに向かい続け、つかんだ“黒字”です。
ナンバー2には答えがある。トップにはそれがない
ナンバー2には、「答え」があります。何か解らないことがあればトップに訊くことが出来ます。その結果責任は「自分にもある」と言っていても、深いところでは「自分にはない」と思っています。
しかしトップは違う。
トップは、すべてのイメージを創り、すべてに答えを出す役目です。
実現するもの、その方針、そして、その基準。
それらはすべてトップが“創る”ものです。
トップとナンバー2とは、役目が違うということです。
だからその苦悩も違うということです。
「うちの幹部は本気で動いてくれない」と嘆いても仕方がありません。
そういうものなのです。人はその立場になるまで、解らないものなのです。
M社長の「この立場になってみないとわからないものですね。」という一言には、過去の前社長に対する態度や発言を顧みる思いも含んでいるようでした。
社長とは、その会社における「神」である
誤解を恐れずに言います。
社長とは、その会社における「神」である。
神とは万能である、という意味ではありません。
“創造する者”という意味です。
トップの役目は、この会社における全てを「創る」ことにあります。
それに対し、ナンバー2以下、社員全員の仕事は、それを「造る」ことにあります。
創る者が間違えば、造る者は迷い、
創る者が曖昧なら、造る者は揺れることになります。
だからこそ、社長は“イメージをつくること”から逃げてはいけません。
答えを出すことに正面から向かうことです。
・どのように事業を伸ばしていきますか?
・どのような仕組みをどのようにつくっていきますか?
・自社の管理者はどのような働きをする存在ですか?
社長がこの答えとなる“イメージ”を持てているかどうかです。
そのイメージの有無と質が、そのまま“会社の未来”になります。
重い責任です。しかし、我々はそこから逃げません。
一歩ずつ、確実に進んでいきましょう。
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矢田 祐二
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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